学校での性教育は文部科学省の指導要領に沿って行われています。『初潮(はじめての月経)と精通(初めての射精)』については、小学3・4年に設定されています。
ご家庭でお子さんに話をする場合のポイントは
・初潮と精通は、体の成長のひとつで、自然なうれしい変化としてポジティブに伝える。
・日頃から意識してお子さんへ言葉や態度で愛情を示す。
「性教育と身構える必要はありません。お子さんへ愛情表現が、お子さんの自己肯定感を積み上げ、お子さん自身の『性の健康』を守る力を育むことにつながります」

これは前回、長年性教育に取り組んでいる渡會睦子先生(東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授)に教えていただいた一部です。

今回は、実際に渡會先生が行っている中学生への性教育の出張授業を、更年期の医療ライターの私が、隅っこで参観させていただきました! その内容をレポートします。 

 


性教育ってなに? いやらしい話なの!?


この日の授業は、中学1年生約100名に向けて45分間で行われました。

「こんにちは。今日はみなさんに質問をしていきます。『はい』『いいえ』『わからない』のどれかに手をあげてください。みなさんの気持ちを確認しながら、授業を進めていきます。まずは、性教育の『性』という字のイメージを教えてください。『性』の字を見るといやらしい、エッチなイメージがある人はいますか?」(渡會先生)

渡會先生の明るい問いかけに、「はい、はーい」と手をあげる男の子、笑いながらそれを見ている生徒たちもいます。ほとんどの生徒たちはやや緊張しつつ「わからない」に手をあげます。

「最近、エッチな話をするのがクラスで多くなったと思うか教えて?」との質問で、教室は一気にザワつきます。

「みなさんの反応で、だいたいわかりました(笑)。では、そういうエッチな話を聞くと、気分が悪くなる人はいますか?」(渡會先生)

男の子も女の子も遠慮がちに、ちらほら手があがります。

「そうですね。いやらしい話、エッチな話を聞くと、思春期の約1~3割の人は気分が悪くなると言われています。クラスで『ウケる』と思って話をしていると、『苦手だなぁ』『気持ち悪いなぁ』と思っている人もいることを覚えておきましょう。これはセクシュアル・ハラスメントの防止にもつながります」(渡會先生)

大人でも、いや大人のほうが社会に出ても周囲の人の気持ちを考えない発言をして、問題になるケースは多々。耳の痛いところ。
渡會先生は、終始、生徒ひとりひとりの表情・顔色・反応を細かく観察。日頃のそのクラスの性に対する興味度や個々の心の状態を素早く察知して、気分が悪くなる子が出ないように、慎重に言葉を選んで進行していきます。誰ひとり嫌な気持ちにならず、大事なことを伝えていくのは至難の業。絶妙なさじ加減は、まさにプロフェッショナル!

一番の特徴はレクチャーではなく対話。生徒たちがポロポロ発言する言葉を拾い、「そうだよね」、「わかるよー」、「それはちょっと一緒に考えようね」と返していくのです。すると生徒たちは自分の言葉を対等に聞いてくれる渡會先生に信頼を寄せはじめ、本音がどんどん飛び交うように! 授業なのに聞いてもらえるって、私には新鮮に感じました。

 


「性」は生きるための心の在り方


国語辞典を使って「性」という文字の意味を紐解き、「性」を使って二文字熟語をみんな考えるコーナーでは、「性別」「性格」「酸性」など、ワイワイと盛り上がります。

「色々な意味がありますが、性という字は『りっしんべんに生きる』と書きます。性教育は生きるための心を学ぶ教育とも言え、いやらしいイメージとは違うことがわかると思います。みなさんは、いつもは子ども扱いされることが多いかもしれません。大人には、子どもには話さない知識もたくさんあります。今日は大人の仲間入りをしつつある時期のみなさんに、大人としての知識をお渡しします。その知識を自分の考え方に変えて、自分の人生を守るための行動にうつせるかどうかは、親でも先生でもなく、自分次第です。この授業では自分の人生を大切にしていく方法を考えてみましょう」(渡會先生)

続いて「今、自分が思春期だと思う人?」ときくと、「わからない」への挙手が大多数。確かに、私も渦中にいた時には、思春期だなんて意識したことはありませんでした。
いったいどんな授業になるのか、私も中学生と一緒にぐっと前のめりになりました。


今の心と体を大切にするのは、未来の自分のため。


次に、思春期に学んで欲しい内容から、「みんなは何を知りたい?」と聞いていきます。

1 人生の計画
2 体の変化
3 心の変化 不安や悩み、ストレスの解消法
4 人との付き合い方 コミュニケーション

5 恋愛について
6 妊娠と子育て
7 性感染症について
8 人工妊娠中絶について
9 性被害・加害・事件
10 その他

「限られた時間の中で、みんなは何を知りたい?」と渡會先生が聞くと、多くの生徒が「心の変化」と「人との付きあい方」を選びました。

「今日は心を中心に話をし、恋愛、妊娠・子育て、性感染症などについては来年話します。それまでのお約束です。
自分の体と心を大事にしていてください。プライベートゾーン、下着で隠れるところは、見せない・触らせない、見せて・触わらせてと言わないことを約束しましょう。
写真でも同じです。今、思いあっていると思う相手に送った裸や性器の写真でも、後にSNSで拡散される等、様々な問題が起きています。将来の自分を守るためにも注意していきましょう。
みなさんの人生はつながっています。長い人生は何度でもやり直しがききますが、自分の体は人生を全うするまで、ずっと使うものです。今の自分を大切にすることが将来の自分も大切にすることにつながり、将来の自分にチャンスを残してあげることができるのです」(渡會先生)

 

「将来の自分のため、今の自分を大切にして」と、これまでとは違い強い口調で話す渡會先生のメッセージに聞き入る生徒たち。親や親族以外に、自分のことを真剣に考えてくれる大人がいる。何かあったら相談できる存在がいる。人との付き合い方は、自分を大切にするのと同じように、相手も大切な存在だと理解して考えていけばいいのです。

 
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