食べたいと思う気持ちを尊重する
そこで、患者さんのために本当によく勉強し、工夫をしてもらったことに感謝や尊敬を示しながら、奥様とこのような話をしました。
「健康によいといわれる食べ物でも、残念ながらがんに効果があるとまで知られているものはありません。がんに効くといわれている食べ物も、どこまで効果があるのかはよくわかっていません。
私は旦那さんの体重が減り続けていることをとても心配しています。もちろん、抗がん剤の影響もあるでしょう。抗がん剤によって食欲がわかなくなってしまっている時期も実際にあるようです。
しかし、そんな時期に一番大切なことは、美味しいと思うものを食べ、少しでも楽しめること。奥様が考えてくださったように、食べることは治療の一部です。体重がこのまま減り続けてしまうと、体が弱ってしまい、実際に効果のあるがんの治療も受けられなくなってしまうかもしれません。
食欲がわかないときは、健康に悪いといわれがちなアイスクリームやお菓子も栄養になり、旦那さんに元気をつけ、体重の維持に一役買ってくれるかもしれません。こういう時こそ、あまり食事の種類を制限せず、旦那さんが食べたいと思うものを尊重してあげましょう」
すると、奥様は理解を示してくださり、食事を元に戻したそうです。その後、患者さんが「抗がん剤の後でもアイスクリームなら美味しく食べられることがわかりました」と笑顔で話をしてくれました。そして、体重の減少も止まり、回復し始めました。
「健康」のための食事は、時と場合によって「不健康」を導く食事になってしまうことがあります。逆に「不健康」とされる食べ物が、人の健康を支える食べ物になることもあります。この場合、アイスクリームが患者さんの食生活を大きく好転させてくれることになりました。
「好きなものを食べる幸せ」というのは、場合によっては何ものにも代えがたいものになっているかもしれません。それを奪うことが、結果として健康を奪うことにつながることもないわけではありません。
食品を選ぶうえでは、科学的な根拠は必ずしも十分ではないという前提で、あまり特定のものに固執しすぎず、心の健康ともバランスをとりながら、柔軟に選択することが重要なのかもしれません。
この先、健康で自立した老後を迎えるために、山田先生の新刊『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』もぜひチェックを。
前回記事「「体にいい食品」の効果はたまたま!? 根拠のない宣伝に気をつけよう【医師・山田悠史】」はこちら>>
写真/shutterstock
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