退院後、数カ月のリハビリを経て、店を再開したことを教えてもらいました。私は年末の時期にサプライズでお店を訪ねました。私の姿を見ると、調理場にいた二人はその手を止め、泣き崩れました。
「あの時、先生が説得してくれなかったら、この店はもうなかったよ。本当にありがとう。先生は神様だよ」
二人は私の手をかたく握りしめてくれました。
「私は神様なんかではないですし、仕事をしてくれたのは優秀な薬ですよ。でも、約束通り、今年の年末はまたお店ができるようになられて、ただそれが嬉しいです」
そう言って、前年の年末を奪ってしまった分までお金を落とそうと、たくさんの料理を注文しました。その料理の味もまた、今でも忘れない大切な思い出です。
「生きがい」が明確だから決断できる
当時を振り返ると、自分は本当に無我夢中だったと思います。ただ、あの時の仕事と生活、突然の告知のはざまで揺れ動く中で、最も大切なものは何か。患者さんの生きがいに迫ることができたのは大きなポイントだったと思います。
「人生で何が一番大切か」
「何を優先したいのか」
それが明確になった時、患者さんは決心ができたのです。
ただ、多くの人にとって現実はそんなに簡単なものではありません。悩んでうまく決断ができないケースも数多くあります。家族で意見が対立することだってあります。意識がなかったり、朦朧としていたりして、患者さん自身が意思決定をできないということも稀ではありません。
ある研究(参考文献1)では、死に直面した人の7割は意識が朦朧としているなどの理由で、意思決定能力を失っていると報告されています。そのような時には、その人をよく理解する家族や友人が代わりに治療方針を決定しなければなりません。
もちろん、専門的な知見とともに医療チームもサポートをしますが、医療者は意識のない状態で運ばれてきた本人と初対面であることも稀ではなく、対面したことのある医療者でも、家族や友人ほど患者さんを理解できているということはほとんどないでしょう。
そのような中で患者さん本人の「生きがい」や「価値観」、つまり「Matters Most to Me(私にとって最も大切なこと)」は、治療方針を決定していくうえでとても重要な羅針盤となります。不測の事態が生じた時でも最良の決断ができるように、普段から家族や友人とよく話し合っておくことが大切です。
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参考文献
1 Silveira MJ, Kim SYH, Langa KM. Advance directives and outcomes of surrogate decision making before death. N Engl J Med 2010; 362: 1211–8.
写真/shutterstock
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