凛(藤原さくら)に伊達弓子(栗山千明)、
素直になれない女性たち
さらに、この当て馬候補(?)2人それぞれに想いを寄せる人物、つまり当て馬の当て馬がそれぞれいることがわかってきました。
まず慎吾を好きなのが、同じ施設育ちで美容師として働く凛(藤原さくら)です。子どもの頃突然父を亡くし、施設にきて落ち込んでいた凛に明るく話しかけてくれたのが慎吾でした。慎吾にほのかな恋心を抱き、ついてまわっていた凛ですが、その後花枝が施設にやってきて状況が変わります。花枝を見てわかりやすく惹かれている慎吾に気づくと同時に、花枝の敵意のないかわいさにもキュンとする凛。さらに施設長(稲森いずみ)に「花枝のこと、よろしくね」と言われてしまいます。混乱の末、アネゴキャラになりきることで自分の精神を保ったのでした。
大人になっても相変わらず花枝を好きな慎吾と、相変わらずそんなことには気づきもしない花枝。二人を見ながら、相変わらず慎吾が好きな凛。人によっては花枝にいじわるしたくなってしまいそうですが、凛はいつだって花枝の味方、いい姉貴分でい続けました。
期間限定の恋をはじめた花枝の心情をすぐに見抜き「(花枝に)何かあるのはわかる。それが何かはわかんない。そしてどんなに問い詰めたって言わないと決めたあなたは言わない。でも何かあるな~と私は思ってるから、そのつもりでいな~。わかった~?」「もやもやしてんだろ~? ヘッドスパおごる」と話しかけます。凛ちゃん、まじでいい奴すぎで涙出そう。
花枝と芦田の中華街初デートを知って慎吾がついていくのを見越して、一緒についていったときの行動もいじらしい。二人に気づかれないように尾行しつつ、隠れようと手を握られてドキドキしたり、ずっと花枝のことばかり見ている慎吾を見て、見失うようにわざと肉まんを買ってほしいとねだったり。
芦田のマネージャーで彼らを発掘した人物・伊達弓子(栗山千明)は彼に恋を勧めた張本人ですが、芦田と花枝が食事しているところを見かけて面白くない自分に気づきます。「何だよ、ひどくない? 私が連れてきた店じゃん」「誰だよこうしろとかいったよ……あたしだよ!」「(店の鹿威しに対して)うるせえなぁ! コンコンコンコン!」と叫んでまわりの人に見られる様子は一人コントのようでした。芦田に「話をする女の人は伊達さんくらい」と言われて内心喜んでいるのもかわいい。
弓子はもともと芦田の才能を見出した人でもあるけれど、自分のせいで芦田を一般的な社会から切り離してしまったのでは、という責任を感じています。会社の意向に従わねばならないものの、今まで何年も曲が書けない芦田に住居などが提供されていたのも、弓子の尽力があったのは間違いなさそう。彼女もまた、不器用でいい人です。
さらに、当て馬とはちょっと違うかもしれませんが、芦田のバンド仲間・薫(東啓介)も定期的に彼の家にやってくる一人です。万年金欠でお金をせびったりもしますが、よく材料を買ってきては美味しい食事を作り、芦田に食べさせています(勝手にいい食材を買ってお金を請求するし、弓子がそれを食べたい場合は高い料金を取るけれど)。芦田を金づると思っているだけかもしれないけど、それだけではない、定期的に生存確認しにきてるのかなという気もちょっとします。
芦田も慎吾も凛も弓子も、もしかしたら薫も、みんな揃いもそろって不器用で、いい奴。誰かの想いが通じれば誰かの想いは叶わないのだけど、なんだか全員うまくいってほしい……と願う気持ちになってきてしまう。そんなところも、このドラマの魅力のひとつじゃないかと思います。
「この曲しかいらない」花枝のセリフに、推しのあるべき姿を思う
また、花枝の亡くなったお母さんが好きで、花枝も大好きな曲、そしてかつて芦田が作った唯一のヒットソング「スタートライン」にまつわるエピソードにも心打たれました。第1回で花枝が「音楽はこの曲しかいらないんです」と語るシーン、その後芦田がピアノ弾き語りで歌ったこの曲を聴いて涙を流すシーン、思わずもらい泣きしてしまいました。
最近「推し活」が一般的になってきて、「推しを見つけよう!」という動きや「好き=推し」という風潮もあり、それはいろんな人の楽しみが広がるならもちろんいいことでもあるけれど、推しってこういう、「これさえあれば何もいらない」と思えるような、切実なものに対して使う言葉だったよなぁ、と思い出しました。
あらためてそんな「これしかいらない」と言えるような気持ちになったものを大切にしたいし、そういうものに出会いたい。そう思いました。
花枝が芦田と恋をすることにしたのは、事故をきっかけに、いつか耳が聴こえなくなる可能性の高い病気だとわかったから。手術の前日を期限に、たくさん思い出を作りたいと思って恋の取り組みをすることにしたのでした。
不器用で愛おしい登場人物たちと、彼らが切実な想いでつかもうとする、大切な感情や思い出。大好きな物語になるような予感がして、続きも楽しみです。
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