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『ドリームプラン』 ©2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

今までもこの連載で実話をもとにした作品を数多く紹介してきましたが、『ドリームプラン』はこれが本当に実話なの!? と驚くようなストーリーが描かれています。

 

主人公はテニス選手のビーナス&セレーナ・ウィリアムズ姉妹を一流のプレイヤーに育てた父親、リチャード。
娘たちが生まれる前に「歴代1位と2位の座を占めるテニス選手を育てるために、子供があとふたり必要だ」と言っているシーンを観て、こんなに勝手なプランを実行しようとする父親の話を好きになれるのだろうか……、とちょっと心配になってしまいました。

いざ映画が始まってみると、このお父さんの教育方法は想像以上に型破り! 
賛否両論あると思いますが、これほどまでにブレない信念を持って成功をつかんだ人は多くはないと考えると、ハリウッドで映画化されるのは遅すぎたくらいかもしれません。
リチャードはテニス未経験なのに独学でテニス選手を育成する計画書を作り、それをどんどん実行していきます。
娘たちに対してだけではなく、コーチやナイキなど契約相手にもかなり優秀なネゴシエーター。自分の理屈を押し通して、いつの間にか相手を巻き込んでいくんですよね。
ウィリアムズ家は5人姉妹なのですが、ビーナス&セレーナ以外の姉妹も成績優秀で一家の結束力にも目を見張るものがあります。

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印象的だったのは、家族みんなでディズニーの『シンデレラ』を観るシーン。
リチャードは「この映画から学んだことは?」と娘たちに問いかけるのですが、彼にとっての“正解”である「謙虚さ」という答えが返ってくるまで何度も繰り返して観ようとするのです。
私は娘たちの「礼儀正しくあること、勇気の大切さ」という答えもとてもよかったと思ったけれど、この家族がなぜいつも謙虚で目標に向かってひとつになって頑張れたのかが伝わるシーンでした。

この映画には白人社会だったテニスの世界での差別の問題や、リチャード自身が父親との関係のなかで感じた痛みも描かれています。
製作総指揮も務めているウィル・スミスは短くてピチピチしたショートパンツを履いてリチャードを演じているのですが、最後に流れた本人の映像と本当によく似ていてびっくり! 

母親を演じたアーンジャニュー・エリスという女優さんのお芝居にも心打たれ、彼女がテニスを教えるシーンでは涙が出てきました。看護師として働きながらときには娘たちのテニスのコーチになり、貧乏なときも裕福になってからも、母として子供たちの心を守っていく。そのときどきの表情に自然な変化があって、お芝居の流れについての完璧なプランがあったんだろうな、と感じました。

 

娘たちに謙虚であることの大切さを伝えながら、それが足りないのはこの父親なのでは!? と思うシーンがあったのは正直なところです。
けれどもリチャードが放つエネルギーに影響を受けて、本気で勝負に挑むなら一分一秒でも無駄にしちゃいけなんだなと思ったのも確かなこと。
夢に向かってひたむきに頑張った家族のアメリカンドリームを描いた、力強い作品です。

 

 

<映画情報>
『ドリームプラン』

2人の娘を世界最強のテニスプレイヤーに育てる夢を持つ破天荒な父親リチャード。テニス未経験の彼はテニスの教育法を独学で研究し、娘たちが生まれる前から「常識破りの計画=ドリームプラン」を作成する。お金もコネもない、そして劣悪な環境の中、父はどうやって2人の世界チャンピオンを誕生させたのか?
全国公開中。

配給:ワーナー・ブラザース映画
©2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

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