60日以内に5000人以上の賛同が集まれば、政府が対応

 

台湾には、選挙権の有無にかかわらず、メールアドレスと台湾の電話番号さえあれば政策に対する意見を投稿できる、〈Join〉という名前のプラットフォームがあります。これは政府によって運営されており、投稿された意見に対して60日以内に5000人以上の賛同が集まれば、政府が対応することになっています。私も入閣する前から政府のリバースメンターとして設立にかかわりました。すでに台湾の人口の半数ほどのサイト訪問数があり、台湾ではかなり浸透しています。

興味深いことに、この〈Join〉で最もアクティブなのが15歳前後と65歳前後です。彼らは比較的時間に余裕があるだけでなく、社会に対する意識が高いことが見てとれます。

台湾では2019年の7月から、大型チェーン店のイートインにおけるプラスチックストローの使用が禁止されていますが、それもこの〈Join〉に寄せられた16歳の女子高校生からの意見がきっかけでした。彼女は台湾のタピオカミルクティーが世界的に有名でありながら、そのためにプラスチックストローが大量に消費され、環境に悪い影響を与えることに警笛を鳴らしたのです。

〈Join〉には市民からの提案の他にも、政府が進めるすべての政策について、予算や進度といった情報を公開する機能もあり、随時更新されています。国民は投票によって政治を任せた後にも、政策がしっかり実行に移されているかを監督することができるのです。

 


作者プロフィール
オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)・語り

台湾のデジタル担当政務委員(閣僚)、現役プログラマー。1981年4月18日台湾台北市生まれ。15歳で中学校を中退し、スタートアップ企業を設立。19歳の時にはシリコンバレーでソフトウエア会社を起業。2005年、トランスジェンダーであることを公表(現在は「無性別」)。アップルやBenQなどのコンサルタントに就任したのち、2016年10月より、蔡英文政権でデジタル担当の政務委員(無任所閣僚)として、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣。 2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムや「ショートメッセージ実聯制」を構築、台湾の防疫対策に大きく貢献。デジタル民主主義の象徴として、世界にその存在を知られる。

近藤弥生子(こんどう・やえこ)・執筆
台湾在住の編集・ノンフィクションライター。1980年福岡生まれ・茨城育ち。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾へ移住。現地のデジタルマーケティング企業で約6年間、日系企業の台湾進出をサポートする。2019年に日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を設立。雑誌『&Premium』『Pen』等で台湾について連載。オードリー氏への取材やコーディネートを多数手がけ、著書数冊を上梓。オフィシャルサイト「心跳台湾」。

『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』
語り:オードリー・タン 執筆:近藤弥生子 SBクリエイティブ 990円(税込)

デジタルで世界はどう変わっていく? そして日本は――? 台湾の天才デジタル相が、現時点の未来予想図と、私たち一人ひとりにできることを教えてくれる本書。「自分はメディアであり、プラットフォームである」「選択権を市民に委ねてこそ、民主的だと言える」「日本のDX『2025年の崖』をどう乗り越えるか」など、デジタル化が急加速する今こそ知っておきたい課題を網羅する。政治と個人の関係性を見直し、社会に積極参加するための背中を押してくれる一冊。



構成/金澤英恵