賃金が上がらない理由②――労働者の流動性が低い


では、なぜ労働分配率が低いのか? それには、新卒一括採用・終身雇用という日本の安定しすぎた労働環境が影響していると考えられます。言い換えると、労働者が同じ会社に長く勤めがちで、労働条件に多少の不満があっても、なかなか会社を辞めないことが大きな要因になっているのです。このように労働市場の新陳代謝が悪いことを、「労働者(労働市場)の流動性が低い」と言います。

企業の視点で単純に考えれば、人件費を下げた分だけ利益は上がります。しかし、賃金を低くしすぎると、人が集まらない、あるいは辞めて別の会社へ行ってしまいますから、妥当な相場に落ち着きます。しかし日本の場合、賃金が上がらなくても従業員が簡単には辞めないので、企業は賃金を上げるモチベーションが低くなるのです。企業は収益が上がっても、株主配当にも配慮しなければならないし、設備投資や現預金にも回さなければならない。そんななかで従業員の昇給は後回しにされやすい。つまり、労働者の流動性が低いことで、「釣った魚に餌をやらない」状況が可能になってしまうのです。

 


会社を途中で辞めると損をする仕組み


また、労働者側から見た場合にも、日本では同じ会社で長く働いたほうが恩恵を受けやすい、という事情があります。賃金プロファイル(図表2-3)を見ると、50歳くらいから60歳頃にピークがあり、逆に若い時分には賃金は低く抑えられていることがわかります。

 

年功序列で賃金が上がっていくのは慣行であって、実際の企業への貢献度に必ずしも見合っているとは限りません。若いうちはどれだけ活躍して会社に貢献しても、給与は低めに抑えられてしまいます。この制度下では、よほど良い転職をしない限りは、途中で辞めたら損、ということになってしまいます。