ファッションスタイリスト佐藤佳菜子さんが日常に感じる思いを綴る連載です。

 


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「生きつづける動機が弱い」

というのは、ある程度の年齢になってから、ふと感じるようになった。それは、ネガティブな意味合いではまったくなくて、今すぐ死んでしまいたいとか、そういう激しさを伴う絶望感はゼロなので、落ち着いて聞いてください(笑)。

結婚をしてしばらくした頃、夫に子供はもういらないと言われたとき、ほう、わたしの人生には子供はいないということか、と思った。どうしてもどうしても欲しい、とも思っていなかったけれども、結婚をしたらいつか子供を持つこともあるだろうという考えもあった。そのときは30代後半にさしかかっていたので、もし、とても欲しいと思っていたなら、わたしの性格上、もうとっくに動き出しているだろうとも思ったので、ここまで真剣に取り合ってこなかったならば、そんなものなのかもしれないという運命論者的な方法で納得をした。

仕事は大好きだ。22歳からこの仕事を続けていて、それ以来、仕事に関して浮気心はゼロ。辞めたいと思ったことすらない。強炭酸をげっぷをしないで飲んでいるような思いの日々や、豊洲市場で競りにかけられる魚のような気分になる日もあるけれど、このくらい経つと、まるで、お気に入りの毛布にくるまっているような瞬間だって多い。それに、なにより、楽しいことがほんとうにいっぱいあったから、後悔することがほとんどない。

つまり、人生100年時代と言われるこの時代に、何のために長生きをするのか。大好きだった母親はもう見送ったし、将来を見ていたい子供もいないし、仕事にしたって、これからやりたいなと思うことも、もちろんあるにせよ、あと60年と思うと、単純にヒマが保たない!

だいたい、人は真剣に向き合えば、20年で一人前になれることが多いとして、あと3回もなにかのプロフェッショナルになれてしまう可能性。わたしは、いまちょっとも泳げないけれども、本気をだして20年を費やしたら、もしかしたら、プロフェッショナルな海女さんになって、めちゃくちゃアワビとかを取ってくるかもしれないし、次の20年で、高所恐怖症を克服して、ただでさえ得意な掃除のことを学んだら、世界一の高層ビルの窓を朝飯前に掃除することもできる可能性も無きにしもあらずだし、さらに次の20年修行をしたら、まぁ、極端にいったら何にでもなれるポテンシャルがある。

で、この3回全部できちゃうなんて、ちょっと、長すぎやしない?? うそでしょ。と果てしなく続く時間と労力を思って、軽いめまいをおぼえて途方に暮れていたのだ。人生ってなんて壮大なひまつぶし。

今日、仲良しのライターの発田美穂さんがインスタグラムで紹介していて購入した本が届いたので読み始めた。なんの内容の本かも、よく確かめずに読み進めていて、突然あるページで、脳みそがくるんとひっくり返った。

「生きる理由などなくとも
生きていていい。
そう気づいている人は、
ずっと生きていける。」

生きていく理由を必死になって探していたのに。なにか理由がないと、なんとなく面目ないような、そんな気持ち。だれに対してだったのだろう? それなのに、突然、理由などなくともいいのだ。と言われたので、顔がほとんどハトになっていたと思う。クルックー。

そのほかにも、
「大人なんて存在しません。
大人も大人がなにかよく分かっていない。」

だとか、明文化できていなかっただけで、なんとなく心の中にあったことをきっぱりと言われると、人は高らかに笑い出したいような気持ちになるようです。今日のわたしはなんだかいつも以上に明るいです。

子供の頃、本ばかり読んでいた。大人になるにつれて読書量は100万分の1くらいに減っているけれども、やっぱり本はいい。知らないことを教えてくれる。これ以上はもう書きません。ご興味がある方は読んでみてください。

 

最近、ふたごの甥と姪は8歳になりました。姪の靴のサイズは21㎝。わたしの方が32年長く生きているのに、1.5cmしか変わらないというのは、なんだか理不尽ではないですか。クルックー。

それでは、よいお盆休みを。

 


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バナー画像撮影/川﨑一貴(MOUSTACHE)
文/佐藤佳菜子
構成/高橋香奈子
 


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