ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向けて動きはじめたフィギュアスケート界。憧れの地に向けて、この4年間をどう過ごすか。選手たちの戦いの日々が始まっています。

フィギュアスケーター・山本草太選手もそのひとり。皇帝プルシェンコに魅せられ、6歳で始めたスケート。その才能は早くから注目を浴び、初出場の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得。リレハンメルユース五輪では金メダルを勝ち取り、平昌五輪の有力候補と目されていました。

しかし、右足首の骨折により1年半もの間、競技から遠ざかることに。3度の手術を経て、再び氷の上に戻ってきた山本選手は、「世界一厳しい」と称される日本男子の代表レースに挑み続けています。

すべては五輪という夢のために――。険しい道のりを歩む山本草太選手の現在地を3回に分けて追いかけます。

 


全日本のフリーは、自分の体じゃないような感覚だった


――まずは昨年の全日本選手権を振り返るところから始めさせてください。山本選手はショートプログラムで93.79点を記録し、自己最高の4位発進。しかし、残念ながらフリースケーティングでジャンプが崩れ、総合8位となりました。

昨年の全日本SPで4位発進。存在感を示しました。写真:森田直樹/アフロスポーツ

ショートは本当に練習通りのいい演技ができて。自信を持ってフリーに臨んだんですけど。現地に行くまでは4回転の確率もだんだん良くなっていったのが、現地に入ってからなかなか決まらなくなってしまって……。ショートは4回転トウループ1本。でも、フリーはトウループとサルコウの2種類の4回転が入っている。その両立がうまくいかなくて。フリーはどこか出来上がっていない感覚が自分でもあったんですけど、それがそのまま出てしまった、という内容でした。

――フリーを終えたときは、どんな想いが胸をよぎりましたか。

あっという間に時間が過ぎてしまったなというのが正直な感想で。何て言ったらいいのかな。自分の体が自分の体じゃないかのような感覚でした。気づけば終わってしまっていたという感じで。

――リンクインしたときの表情はリラックスしているように見えました。

緊張もあったんですけど、あんまりプレッシャーには思わず。練習通りでいこうという気持ちで臨めたは臨めたんです。ただ、自分の演技動画を振り返ってみても、ちょっとリラックスしすぎていたかなと。緊張とリラックスの間といいますか、その調整が難しかったですね。

――フィギュアスケートってつくづくメンタルスポーツだと思います。上位に行く選手は本番に向けてのメンタルコントロールがすごいというか。

そうですね。ここ数年、最終グループでフリーを迎える機会も増えてきて、国内ではありますけど、トップの選手として立てている実感もありました。でも、その中でもやっぱりレベルの差というのは感じていたので。自分は自分という気持ちもありつつ、みんなと滑って、もっと上を目指したいな、もっとレベルアップしたいなっていう気持ちにはなりましたね。

山本選手の代名詞といえば、イーグル。雄大で伸びやかなイーグルはプログラムの見せ場の一つ 写真:松尾/アフロスポーツ

――全日本で失敗したフリーを年明けの名フェス(名古屋フィギュアスケートフェスティバル)で披露。全日本の雪辱を晴らすような会心の演技でした。

全日本が終わってから、悔しい気持ちをぶつけるように練習をしてきたので、ああいう演技ができたことはうれしかったです。結果的にピークがズレたかたちにはなるんですけど、どういうメンタルで練習を積めばいい演技ができるのかという感覚を掴めたことは良かったですし。失敗を失敗で終わらせず、少しずつですけど成長していけたらと改めて思うきっかけになりました。

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