世間の常識から外れている恋愛でも、不幸とは限らない


――『汝、星のごとく』は、高校時代に瀬戸内の島で出会った暁海(あきみ)と櫂(かい)が、惹かれ合い、傷つき、成長していく姿が描かれた恋愛小説です。もともとどんなテーマで書き始めた作品ですか?

「一度、男女のリアルな恋愛小説を書いてみたかったんです。一般文芸に挑戦する前に私が10年以上書いてきたBLは、女性に楽しんでもらえるための約束事もあり、基本的に分かりやすいハッピーエンドの物語が求められました。そういった物語もとても好きなのですが、今回はファンタジー性を排除した生々しい物語に挑戦してみたいなと」

凪良ゆう「35歳で作家になり、迷い続けてたどり着いた今」――新刊『汝、星のごとく』に本屋大賞受賞作家が託した想い_img0
8月4日に発売されるや即重版、10万部突破。大ヒット中の話題作。『汝、星のごとく』¥1760/講談社


――正直、最初の一文から生々しいです。〈月に一度、わたしの夫は恋人に会いに行く〉という暁海の告白から物語が始まるので。もちろん、その背景には深い事情があって……暁海の覚悟には度肝を抜かれてしまいました。

 

「不倫を容認しているような関係を描くことに最初は後ろめたさもありました。今は芸能人の方々の不倫が発覚したら職を失ってしまうような時代だし、そもそも不倫は正しいことではないですし。ただ、私としては小説の中でまで勧善懲悪を徹底しなくてもいいと思っていて。一人の人間として、世の中の常識から外れる決断ができる人の強さに憧れている部分もあります。

世間の正しさから外れていても、暁海にとっては不幸じゃないんですよね。それが彼女にとっての幸せのカタチであって、それがちょっと他の人には分かりにくいカタチをしているだけなんです。覚悟を持って自分で決めれば、愚かでもいい。それは、一般文芸として初めて書いた『神さまのビオトープ』でも、その後の『流浪の月』でも、私が一貫して描いてきたことかもしれません」