川っぺりにある平屋のアパートに暮らすちょっと変な人たちの生活を、ユーモアたっぷりに描く『川っぺりムコリッタ』。『かもめ食堂』『彼らが本気で編むときは、』で知られる荻上直子監督が描くその世界は、クスクスと笑っちゃうエピソードや、美しくも不思議な映像がいっぱいですが、実はその中心にあるのはなんと「遺骨」。耳に楽しいリズムの摩訶不思議な映画のタイトルも含め、一体どんな映画になっているのでしょうか。

社会から置いてきぼりになった人々が希望を得るまでーー『川っぺりムコリッタ』で荻上直子監督が伝えたいこと_img0


映画のタイトルは『川っぺりムコリッタ』。川っぺりのアパートを舞台に、社会のすみっこで生きる人々を描いた作品ーーなのですが、聞きなれない「ムコリッタ」という言葉にはどんな意味があるのでしょうか。

 

荻上直子さん(以下・荻上)「私、ずっと川っぺりに住んでいるんですが、川っぺりに住み続けたいなと思ってるんです。流れをずっと見ているのもいいし、川や水って、イヤなことも流してくれる感じがするし。その一方で、台風が来ると氾濫もするし、浸水被害なども最近とても多い。それでも住み続けたいと思わせる、魅了されるものがあるんです。

ムコリッタって言葉は、タイトルに困った時に、現代国語の先生をしている高校時代の友人に脚本を読んでもらい、出てきた言葉でした。仏教の時間の単位で、1/30日、つまり48分くらいらしいのです。川と併せて生と死の曖昧な境界線のような表現にしたいと。『三途の川』ともいいますしね」


ユーモアに包まれた作品は、それでいて登場人物の多くが「身近な誰かを失った人」でもあります。荻上監督が物語を作るきっかけとなったのは、テレビで見た「お骨」を巡るドキュメンタリーだったそうです。

荻上「最初のきっかけは遺骨を巡るドキュメンタリーで、電車の中にわざと置き忘れてしまうなど、意図的に放置される遺骨が多くあることを知りました。映画でも描きましたが、そういう引き取り手のない骨壺が、区役所の一室にずらっと並んでいるんです。その番組の中で区役所の人がある男性の遺骨を離婚した元妻に届ける場面があったんですが、『いらないからその辺に捨てて』と言われていて、衝撃を受けました。誰だって他の誰かとの関わりみたいなものはあるはずなんですが、中には本当に一人で死んでいってしまう人もいて、最終的には共同墓地みたいなところに埋められる。でもそれぞれにはそれぞれの人生があるはず……と思って、話を作りたいと思いました」

 
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