23歳、奔放な嫁の意外な素顔


「真凛ちゃん! お弁当、お弁当忘れてるわよ!」

「わあー、あぶないあぶない! おかーさん、ありがとう!」

真凛と光輝が、早穂子と陽一の住む一軒家に引っ越してきてから3カ月。真凛は妊娠9カ月になり、あと1週間で産休というところまで来ていた。家事と料理は早穂子が若い2人の分もカバーし、なんとか真凛はパタンナーの仕事を続けることができた。

産休・育休をとれば、取れなかった場合に比べて手当がまったく違うらしい。早穂子には詳しいことはわからなかったが、現代では育休を取らずに退職するほうが少ないのだという。早穂子が光輝を育てたときを思い返すと、自分ならば子育てとフルタイムの仕事を両立できるイメージがない。早穂子が真凜をサポートすることが、彼女が退職せずに済む唯一の方法であるような気がした。

「まったく、二人ともちゃっかりしてるんだから!」

口ではそういうものの、ひらひら手を振る真凛を見送りながら早穂子の口元は緩みっぱなしだ。なにせ、もうすぐ待望の初孫がやってくる。赤ちゃん……あの可愛らしい存在が、もう少しでこの家にやってくるなんて。

もはや二人の結婚を反対していたのが嘘のようだ。

 

一緒に住んでみて、真凛はおどろくほど、「手のかからない」女の子だった。もちろん仕事から帰ってくるのは、妊婦への配慮があっても19時すぎ。そこからご飯を作らせるのは忍びないので、結局は3食、早穂子が全員分を拵えていた。そういう意味ではまったくの「お客さん」なのだが、なんというか、真凛は精神的に自立しているところがあって、23歳とは思えないほど落ち着いた、肝の据わったところを見せた。

 

機嫌の良し悪しも出さず、いつも一定のマイペースだけど明るいテンション。ずっと夫の陽一や、勉強で忙しい光輝の体調や機嫌に敏感に対応してきた早穂子にとって、いつも明るく朗らかで、自分の機嫌を自分で取れる家族の存在は新鮮だった。

「だけど、子どもが生まれたら、本当に2人でやっていけるのかしらねえ」

早穂子はため息まじりに呟くと、洗濯物を干すために、バスルームに向かった。

その胸には、1カ月ほど前から浮かんでは消える、「ある考え」が、去来していた。