「なれるかもしれない」から「必ずなれる」へ。世界に通用する自信が後押ししたBTSの成功


小島:韓国では1992年にアイドル系ヒップホップグループであるソテジワアイドゥル(以下:ソテジ)がデビューして、反体制を歌う楽曲を数多くリリースして社会現象を巻き起こしました。それまで西洋や日本の音楽を取り入れて聞いていた若者たちにとって、ソテジは自分たちの言葉で新たな文化を創る革命的な存在だったそうですね。

今や韓国は日本より一人当たりの賃金は高いですし、成長を続けていますが、一方で行き過ぎた新自由主義のもとで負け続け、見向きもされない人たちもいる。そんな人たちにとって、BTSがかつてのソテジのような救世主となったのでしょうか?

キム:少し難しい質問ですね。まず、ソテジの重要な功績は、新しいK-POPの時代を開いたことだったと私は考えています。それ以前の韓国のポピュラー音楽は今でいうサブカルチャーとは異なるもので、若者よりは年齢が少し上の人たちが聞く音楽というイメージ。しかも韓国の音楽が世界に通用するものだと考えられたことは一度もありませんでした。それを変えたのがソテジでした。彼らの登場によって、私のような当時の若者たちが、K-POPの新しい消費者になったのです。韓国のポピュラー音楽が初めて自分たちの世代を代表するものになりました。自分たちが望んでいる音楽を作り、J-POPや欧米の音楽を聴いていた若者たちが気に入る韓国の音楽を初めて生み出したのが、ソテジだったのです。

 

ただ、ソテジは新世代を作ったと言えますが、それは韓国向けのブームにすぎませんでした。2000年代にBoAやSUPER JUNIORや少女時代などがアジアで人気を博しましたが、欧米では大きな成功を得られませんでしたよね。当時はアジアの音楽に対する偏見がまだ強かったのだと思います。そんななか、BTSは世界最高の人気グループになった。ソテジワアイドゥルで始まったK-POPの世界をBTSがグローバルに拡張させて完成させたというわけです。

小島:ソテジを含め新世代のアーティストが巻き起こした熱狂と、BTSの成功が巻き起こした熱狂、それぞれの社会背景や空気感に共通点はあると思いますか?

キム:’90年代と2010年代では、似ている点もあると思います。ソテジがデビューした頃というのは、X世代と言われていた若者たちが自分たちはグローバルコミュニティの一員と考え始めた時代。また、初めて若い人たちに経済的な余裕ができて、文化活動に積極的に参加できるようになった時代でもありました。そんな社会状況がソテジ誕生の背景にあったのではないかと。

でも、ソテジの頃に生まれたそんな認識は、あくまでも頭の中での幻想に過ぎませんでした。「私たちもグローバル社会のメンバーになれるかもしれない」いう可能性として当時は捉えられていたのに対し、BTSが台頭した時には若い人のみならず韓国人全体がそのように「必ずなれる」という自信を持っていました。なぜなら、すでにそれ以前にPSYが「江南スタイル」で成功し、K-POPが幅広い人の間で人気を得るのを目撃し、少女時代、EXO、SHINee、BIGBANGなどを通じて、K-POPが世界で成功した証拠を見ていたからです。K-POPの可能性を肯定的に受け止めていたんです。だからそう言う意味では、ソテジが登場した時と似たポジティブな雰囲気があったと言えるでしょう。

もう一つ、ソテジとBTSの共通点はスピリット、精神的な面です。ソテジのリーダーは高校を卒業しておらず、他のメンバーも大学を出ていません。どちらかというと落ちこぼれだった人たちが最高のスターになったという面で、BTSに似ている面があるのではないでしょうか。BTSも有力ではない事務所の所属で最初はスポットライトを浴びることができなかったのに、成功した。そういう点でソテジと共通点があると思います。