安倍元首相の銃撃事件をきっかけに明るみになったのは、政治と宗教のつながりだけでなく、"宗教2世"と呼ばれる人たちの抱える問題でした。信者である親の元で育った"宗教2世"たちの制限された生活と苦悩を描いた『「神様」のいる家で育ちました〜宗教2世な私たち〜』。10月6日に発売された本作は、著者含む7人の"宗教2世"たちが自らが育ってきた家庭について語っています。

生まれた時から"宗教2世"だった少年。母親の勧誘活動に連れ出され、幼稚園は義務教育じゃないから行かなくていいと言われ、一般の家庭とはかけ離れた生活でした。母親と「集会」に参加させられたある日のこと。

 

神の言葉の前で居眠りなんて冒涜でしょう? 棕櫚の茎に母が聖句を書き写したムチでお尻を打たれる少年。流血しても振り続けられ、お礼を言いなさいと強要されました。少年は、ムチだけでなく大人たちが毎日話すハルマゲドンも怖かった。ムチと破滅を逃れるためには母親、いや神に従うしかなかったのです。

 

この宗教は禁止事項が多く、娯楽・争い・恋愛・輸血などはしてはいけないとされ、誕生日やクリスマスなども祝ってはいけませんでした。母親から返ってくるのは神の話ばかり。

 

林間学校でキャンプファイヤーに参加したかった彼は「サタン」に魅入られます。「絶対にバレないようにすれば 写真も撮られないようにして そうすればみんなと仲良く⋯」同級生と仲良く遊びたい、という子どもらしい願いは、母親の信仰する宗教によって制限されていたのです。彼は15歳の時、「宗教をやめる」と決断します。何が彼の心を変えたのでしょうか。決断を下した彼に母親はどう反応したのでしょうか?

続いては、不妊に悩んでいた時に神様を信じたらすぐにあなたができたのと言われ、手かざしの業を母親にほどこしていた"宗教2世"の少年。

 

この宗教は「薬は濁毒」と教えていたため、彼はアトピー性皮膚炎でしたが保湿剤すら使わずに我慢していました。

また、信者同士の結婚で生まれ「神の子」と呼ばれた少女。彼女は両親からこう教えられ、幼稚園では一人も友達を作らずにいました。

 

「神の子」は、神の血統を守り増やすことが使命。信者以外の人間と恋愛をすると家族が地獄に落ちると言われて育った彼女は、年頃になると一般の人間との恋愛をしていないかを親に探られ、監視されていました。

 

このように"宗教2世"7人の親の信仰を受け入れていた幼少期と、そこから抜け出して自分の判断で人生を歩むまでの半生が描かれます。
読んでいくと、先日、統一教会の"元2世"である小川さゆりさんが「いきすぎた信仰で被害を受ける子どもを救ってほしい」と会見で語った彼女の生い立ちととても似ていることに驚きます。小川さんが会見を開いた時、「娘は精神に異常をきたしている」という彼女の両親の署名が入った教会からのメッセージが届きました。実の親が自分の味方になってくれないという悲しみはどれほどのものでしょう。作中の7人も親が自分を守ってくれない、味方になってくれないという悲しみと辛さを抱えています。

本作は、ある出版社での連載が打ち切られるも「続けてほしい」との声で文藝春秋から単行本として発売された経緯を持ちます。元の出版社によると、『「宗教2世」が「親との関係」において抱える苦悩について問題提起することを目的』とした作品でしたが、一部のエピソードに「あたかも教団・教義の反社会性が主人公の苦悩の元凶であるかのような描き方をしている箇所があった」』ため、連載打ち切りとしたとのことです。

しかし、テーマは「親との関係」だけなのでしょうか。幼少期から日常生活を制限されることの苦しみも描こうとしているのでは⋯⋯と思うのです。その宗教が反社会的であろうとなかろうと、自らの意に反して生活が制限されることがそもそも苦しいのです。"宗教2世"たちの抱える悲しみと苦しさをどうか知ってください。

 

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『「神様」のいる家で育ちました〜宗教2世な私たち〜』

菊池 真理子 (著)

宗教2世。宗教を信仰している親の元に生まれた子供。宗教ありきで育てられ、世間とはずいぶん違う生活を送っています。参加してはいけない学校行事があったり。薬を使わせてもらえなかったり。人を好きになってはいけなかったり。 休日は宗教活動のための日だったり⋯⋯。もちろんそこに幸せを見出す人たちもいるけれど、成長するにつれて苦しさを感じる子供たちがいることを、知ってほしい。

作者プロフィール
菊池 真理子

埼玉県出身。2017年に発表した「酔うと化け物になる父がつらい」(秋田書店)が大きな話題に。既刊に「毒親サバイバル」(KADOKAWA)、「依存症ってなんですか?」(秋田書店)など。
Twitterアカウント:@marikosano_o


写真:深野未季(文藝春秋)
構成/大槻由実子
編集/坂口彩