昭和から平成へと移り変わる頃、「24時間戦えますか」というキャッチコピーの栄養ドリンクのCMが人気を博しました。バブル景気に湧いた頃は、働いたら働いただけ収入がアップし、仕事もプライベートも24時間では足りないほど充実していたのでしょう。あれから30年が過ぎ、時代は一変しました。2017年から、月の最終金曜日に15時までに仕事を終えてプライベートを楽しもうというキャンペーン「プレミアムフライデー」が始まり(あれってどうなったんでしょうかね……)、2019年から施行の「働き方改革関連法」では、時間外労働の上限規制が実行されました。毎日、終電ギリギリまで働くのが何十年も常態化していた“おじさん”たちは今、どうしているのでしょうか? そんなおじさんたちのアフター定時にスポットを当てた『帰らないおじさん』(現在は続編『帰ってきた帰らないおじさん』がイブニングで連載中)がドラマ化され、注目を集めています。
自分や家庭を犠牲にするのが当たり前だった時代。
昭和の高度成長期から、昭和から平成にかけてのバブル景気と呼ばれた日本では、家族や自分を犠牲にしてがむしゃらに働く“モーレツ社員”や“企業戦士”なる会社員が存在していました。新卒で入った会社に定年まで在籍し、家庭のことは妻に任せきりというのが当たり前でした。
しかし、時代は変わっていきます。昭和的な働き方を見直す「働き方改革」が推進され、長時間労働も見直されることになりました。過労死などが社会問題化しており、労働環境の改善は必然的だったわけですが、長年、夜遅くまで働き、時には休日まで返上していた人たちに、「今日から定時で帰るように」と言われても、そう簡単に切り替えられるものではなさそうです。とある企業に勤める渡辺さんもその一人でした。
定時になると、仕事を切り上げたい若手社員の視線が気になり、いざ帰宅しようとしても、なんとなく家に帰りづらい渡辺さんが向かった先は公園でした。
一人でタバコを吹かしていたところ、目に留まったのは、三角帽子のような形をしたコーンスナックを手にして盛り上がる、中年男性たち。小学生の頃、全部の指にこのスナックをはめて一気食いする、なんてことは誰もが一度はやったことがあるのではないでしょうか?(私はやった)
公園で小学生男子のように遊ぶおじさんたちは一体何者!?
なぜいい歳したおじさんが、公園で小学生のように遊んでいるのか? それには理由がありました。かつて、日本の家庭は一家の大黒柱である父が、残業前提で働くことによって支えられてきました。住宅ローンや子どもの養育費など、家族のために働けば働くほど、家族は父が家にいないのが当たり前に。そんな状態が長年続けば、早く帰ったところで、家に居場所はありません。会社に居残ろうとしても、残業禁止だったり、早く帰りたい部下から白い目で見られたりと、こちらにも居場所はなし。
こうして、おじさんたちは自然と公園に集まり、“アフター定時”を楽しむ「帰らないおじさん」が爆誕したのです。
渡辺さんは最後に「帰らないおじさん」の仲間に加わったのですが、銀行の支店長として働く星さんをリーダーに、筋肉質の常田さんなど、かなり個性的な面々が夜の公園に集い、楽しそうに遊んでいます。
「働き方改革」によって突然降ってわいた自由時間。子どもたちは成長して手のかかる時期は過ぎ、むしろ父が疎ましくなる年頃。妻と不仲というわけではなくても、夫が早く帰ってこない方が気楽そう。どこにも居場所がないと思うと辛そうですが、星さんや渡辺さんなどの「帰らないおじさん」は、学校の帰り道に公園で遊ぶ小学生男子のように無邪気で、とても楽しそう。居酒屋でダラダラと飲むよりも、知恵と工夫を凝らして自ら楽しみを見出し、全力で遊んでいる方がキラキラと輝いて見えます。
そして、そんなシュールなおじさんたちの「アフター定時」の様子を愛でるのが、この作品の味わい方。1話完結なので、仕事終わりにちょこっと読むだけで癒やされるはず。
10月6日からは、BS-TBSの10月期連続ドラマ『帰らないおじさん』もスタート。光石研さん、高橋克実さん、橋本じゅんさんという、いい味出したおじさん俳優たちの戯れも見ものです。
家に「帰れない」じゃなくて、「帰らない」! 気持ちの切り替えや工夫次第で、楽しみ方はいくらでもある! ということも教えてくれます。
【漫画】『帰らないおじさん』第1〜2話を試し読み!
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『帰らないおじさん』
西村マリコ
講談社
202X年、働き方改革によって企業戦士(おじさん)たちが手にした「アフター定時」という名の圧倒的自由をどう活かすのか、令和の“5時から男”たちに刮目せよ!!
<作家プロフィール>
西村マリコ
10月29日生まれ。 2019年、『星クズポリス』でデビュー。 現在「イブニング」にて『帰ってきた帰らないおじさん』を連載中。
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