そしていよいよそのときが来たとき……。野沢さんは、「こう死にたい」と決めている、ある理想の死に方があると言います。

野沢:今回本を書くにあたって、「もう肉体が限界だ」ということってどうやったら分かるんだろう? と思って、いろいろ記事を読んだりして調べたんですよ。そうしたら、食べたり飲んだりできなくなるのがサインだ、と書いているものがけっこうあって。現代は、そうなったとき胃ろう(胃にカテーテルを取り付け、直接栄養を補給する方法)にする人が多いんですけど、このサインを知ったこともあって、私は胃ろうはせず死を受け入れたいなと思っています。

 

そうして死が近づいてくると、だんだん24時間サイクルが壊れて、2日ぐらい起きて、2日ぐらい寝て、というのを繰り返しながらゆっくり亡くなっていくらしいんです。で、そのときは脳内モルフィネが出て安らかに死ねる、ということをいくつかの記事が書いていたんですね。これを読んだとき、人間にはそういう力があるんだな! と思った。“死ねる力”じゃないけど、そうやって苦しみを防御する力が備わっているんだ、と。出産のときも、あんなに痛くて「もう二度と産まない!」と思ったのに、すぐ忘れて3人も産みました。だから死ぬときもきっと、脳内モルフィネが出て安らかに死なせてくれるんだ、人間はそんなふうによくできているはずだ、と信じることにしたんです。

 

年々死ぬことが怖くなっていたけど、これはめちゃくちゃ心強い情報でした。今回本を書いて一番良かったことは、こうして、死に方に希望を持てたことだと言えるかもしれません。まあ人間の運命なんて分からないので、明日突然車に轢かれて死ぬかもしれないし、通り魔に刺されて死ぬかもしれない。そのときはもう仕方ないので、血をぼたぼた流しながら、「ええ~、脳内モルフィネを出して死にたかったのにいぃ」と、笑いながら死んでいくしかないと思っています。
 

<書籍紹介>
『老いてきたけど、まあ~いっか。』

野沢直子 著 ダイヤモンド社 ¥1540

59歳になったタレントの野沢直子さんが、老いとの向き合い方を綴った1冊。父の死、子離れ、容姿の変化、死ぬことへの恐怖など、50代になって経験した様々な心情と、そこから見出した人生の最終章を思い切り楽しむための方法を、強がることなく素直に語り尽くしています。生真面目ながらもどこかコミカルな野沢さんの語り口は、重たくなることなく参考にできて嬉しい!


撮影/市谷明美
取材・文/山本奈緒子
構成/坂口彩