「ヤングケアラー」とは、本来おとなが担うとされる家事や家族の世話などの介護を日常的に行う18歳未満の子どものこと。彼らの存在が社会問題として扱われるようになったのはごく最近です。家庭でも社会でも、本人ですら当たり前だと思って見過ごしてきたヤングケアラーの問題とは? 10月21日に発売された『私だけ年を取っているみたいだ。 ヤングケアラーの再生日記』を読むとそれが見えてくるのです。

8歳のゆいちゃんは両親と弟、祖父と暮らしています。彼女が2歳の頃に母親は統合失調症になり、家事ができずに毎日寝込んでいます。起きると妄言や暴力が激しい彼女の代わりに、学校帰りに急いで買い物をし、夕飯を作るゆいちゃん。

8歳で母親の世話をする彼女。父親は弟ばかりを可愛がっていた。『私だけ年を取っているみたいだ。 ヤングケアラーの再生日記』_img1
 

帰宅した父親に、母親が日中暴れたことを話そうとしてもろくに聞いてもらえません。夜、みんなが寝静まった後にこっそり本を読むのが、ゆいちゃんが安心できる時間でした。

 

翌朝、母親が彼女にお願いしたのは「浮気調査」。それは母親の妄想だとわかりつつも、親に言われた通りゆいは会社へ向かいます。

8歳で母親の世話をする彼女。父親は弟ばかりを可愛がっていた。『私だけ年を取っているみたいだ。 ヤングケアラーの再生日記』_img2
 

平日の昼間に小学生が会社に来ているというのに、父親からは娘を心配する言葉一つ出ませんでした。

ゆいちゃんはこうして母親の世話と家事に日々忙しく、学校を休みがちになっていました。久しぶりに登校すると、先生に心配されます。

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「困ってはいない」ゆいちゃんが授業中に必死に考えているのは、勉強ではなく、今夜の夕飯の献立。放課後にお友達と遊ぶ暇なんてありませんでした。

家庭内で「母親」としての役割を担っていたゆいちゃん。母親から「あんた 本当の子どもじゃないだろう」とショッキングな言葉と共に包丁を突きつけられても、ゆいちゃんは自分の感情を出さず、母親に真正面から向き合い、母がおかしくなるタイミングを突き止めようとするなど、どう対応したらいいのかを考えていきます。

その究極が「たまに優しいお母さんになった」時の母親がシチューを作った時のエピソード。

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自分の母親に「お母さん」と呼ばれたゆいちゃん。「褒めて伸ばそう作戦」をやった瞬間から、彼女は「母親の母」役になってしまったのです。そして、ゆいちゃんは自分自身の感情を押し殺し、自分が「したいこと」ではなく「すべきこと」をやろうと決めるのですが⋯⋯。

ゆいちゃんの日常を見ていると、子どもがヤングケアラーになることの問題点がわかります。
・年齢相応の満足な教育を受けられない
・家族の世話が日常化していることが問題だと自覚できない
・個人の精神や肉体の発達に支障が出る

気づくのが「なぜ、お父さんはこんなに無関心なの?」ということ。ゆいちゃんが8歳という年齢で母親役を担っていた原因の一つは父親にあったと思うのです。父親が母親を病院に行かせていれば、弟にも家事をやるように言っていたなら、ゆいちゃんは一人で家事と母親の世話をするヤングケアラーにならなかったのでは。

家族と会話をして解決するのではなく、娘に母親役を押しつけた父親のような存在は他にもいました。保健室の先生に、家庭内で起きていることを思い切って伝えたゆいちゃんの前に立ちはだかるのは。

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意識して描かれたのかどうかわからないのですが、本作でゆいちゃんに手を差し伸べるのはすべて女性でした。埼玉県などによるヤングケアラーの男女比調査を見ると、女子が約6割という結果が出ています。もちろん、現実のヤングケアラーは女子だけに限りません。けれども、彼女は「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識の犠牲者なのでは⋯⋯とぞっとするのです。

 

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『私だけ年を取っているみたいだ。 ヤングケアラーの再生日記』

水谷 緑 (著)

“家族のかたち”を守るため、あの日わたしは自分を殺した。親との関係に悩むすべての人へ――失われた感情を取り戻す、ヤングケアラーの実録コミック!

 

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水谷緑
神奈川県出身。著書に『こころのナース夜野さん』(小学館)、『精神科ナースになったわけ』(イースト・プレス)、『大切な人が死ぬとき』(竹書房)、精神科医・斎藤環との共著『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』(医学書院)、『カモと犬、生きてる』(新紀元社)等。
Twitterアカウント:@mizutanimidori


構成/大槻由実子
編集/坂口彩

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