女子高生の恋愛モノと聞いて何を思い浮かべますか?かっこいい先輩や同級生からの大胆なアプローチに胸キュンしたり、互いに駆け引きするシーンにドキドキしたり。そんな青春時代ならではの甘酸っぱくてキラキラ輝くような恋愛を連想する方も多いことでしょう。ですが、今回ご紹介する『涙雨とセレナーデ』の主人公・陽菜の恋は胸キュンでもドキドキでもない、一味違った読後感に包まれます。


ある日突然、明治40年にタイムスリップ


剣道部に所属する元気いっぱいの女子高生・片桐陽菜(かたぎり ひな)。いつも通り朝練に行き、同級生たちと他愛もない会話をしながら日中を過ごし、休み時間にはなんと気になっていた憧れの先輩からデートに誘われちゃった! ……そんなごくごく普通の高校生活が今日も明日も明後日もずっと続くのだと信じて疑わなかった陽菜。

 

ですが、ある日音楽の授業中に流れたレコードの音を聴いた瞬間、不思議な光に包まれ、明治40年にタイムスリップしてしまいます。

 

そこで出逢ったのは自分のことを「雛子様」と呼ぶ御曹司・本郷孝章(ほんごう たかあき)。そして、自分とそっくりな伯爵家の令嬢・北峯雛子(きたみね ひなこ)でした。

 


どうしたら戻れる!?現代の女子高生が明治時代を奔走


容姿が瓜二つな雛子と陽菜。最初は互いに戸惑いつつも、姿が似ていることに共感し、すぐに打ち解けていく二人。こうして陽菜は、周囲に存在がバレないように雛子の部屋に匿ってもらい、時に入れ替わり生活をするなどの協力を受けながら、元の時代に戻る方法を模索することに。

 

ですが、陽菜の頑張りも虚しく元の時代に戻れる気配もヒントも一向に見つかりません。そんな彼女ですが、タイムスリップした明治40年で日々を過ごすうちに、自分を取り巻く周囲の複雑な人間関係を徐々に理解していくのです。

この時代には厳格な貴族階級があること。自分とそっくりな雛子は華族と呼ばれる貴族の娘であり、経済的に不自由ないけれど決して自分の自由には生きられないこと。そして、タイムスリップした自分に声をかけてくれた孝章は雛子の婚約者であること……。
 

明治時代の闇、ロマン溢れるセリフの数々


とはいえ、雛子には別に想い人がおり、孝章には全く恋愛感情を持っていない状態。陽菜も孝章に特別な感情は抱いていなかったものの、雛子と入れ替わり生活を送るなかで徐々に関係性が変化していきます。

 

 時折見せる元気いっぱいで無邪気な雛子(もちろん陽菜と入れ替わっているから)に戸惑いながらも、さらに心惹かれていく孝章。一方で、彼の持つ優しさと芯の通った強さ、そしてどこかで会ったことがある懐かしさに魅了されていく陽菜。

このまま時代を超えて出会った2人が惹かれあいロマンチックな展開に……と、そう簡単にはいきません。

もちろん陽菜はタイムスリップしてきた現代人であるという最大の秘密を抱えていますが、それ以上に二人を待ち受けるのは明治時代の闇。例えば、当時の華族階級では妾を持つのはいたって普通のことであったように、孝章もまた妾の子。一族に蔓延る因縁、そして裏取引といった貴族階級ならでは薄暗い一面が、二人の人生をより波乱なものにしていくのです。

 

二人を引き裂こうとする、時代のうねり。ですが、そんな闇だけではなく、孝章の凜とした眼差しと力強い生き様、活劇スターのごとき詩的なセリフの数々はまるで大河ドラマを見ているかのようなロマンを感じます。

時代に翻弄される、胸キュンでもドキドキでもない女子高生・陽菜の恋愛をぜひ見届けてください。

 

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<作品紹介>
『涙雨とセレナーデ』
河内 遙 (著)

ある日突然、音楽の授業中に光に包まれて、明治40年にタイムスリップしてしまった元気な女子高生・陽菜。そこで出逢ったのは、愁いを秘めた御曹司・本郷と、自分とそっくりな少女・雛子。廻りはじめた運命の歯車――。切ないタイムスリップ・ロマンス!
 


<作者プロフィール>
河内遙

東京都出身。2001年、「アックス」にて『ひねもすワルツ』でデビュー。2009年、一挙4冊を刊行したデビューコミックスフェアで注目を集める。2012年、『夏雪ランデブー』がテレビアニメ化された。主な著書に『関根くんの恋』『ケーキを買いに』『文房具ワルツ』など。
https://twitter.com/kawachiharuka