「コスパ」だけでなく、最近は「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉も出てきて、いかに効率的に生きるかは若者世代のキーワードになっています。批判的に言われることもありますが、これって自分や他人の時間を大事に扱う意識の表れといえるのでは。特に仕事での「タイパ」はもっと見直されてもいいんじゃないでしょうか。業務の効率化を冥界で目指す異色のお仕事コメディ『あの世のタスク』の1巻が9月16日に発売されました。
古い慣習にハンコ主義、中身のない会議など、やらなくてもいい非効率な仕事に遭遇するとなぜか吐血する癖のあるIT企業の会社員・二階堂佑(にかいどう たすく)。いわゆる「効率厨」の彼は仕事はできるが、目上の人間にも臆せず改善案をズバズバ言うため、上司と衝突するのは日常茶飯事でした。
もっとみんなが働きやすい環境にできるはずだ。仕事も日常も楽しいことばかりじゃないんだから、やりたくない作業などラクにできる方がいいに決まっている。そんな信念を持つ佑は、帰宅途中にうっかり非効率な行動をして、階段から落ちてしまいます。
目が覚めると不思議な列車の中。冥界の鬼と言う女性・鬼希に、「あなたは死にました」といきなり宣告された佑。彼は黄泉の世界行きの列車に乗っていたのでした。そして、彼女からナゾの依頼をされます。
冥界の働き方改革をお願いしたいという鬼希。改革できた暁には、佑を現世に戻すと約束します。
彼がまず連れていかれたのは三途の川。川を渡るには六文銭が必要で、無ければ衣服をはぎとられる。抵抗する死者たちの服を脱がすだけの仕事に多大な人員が割かれているのに佑は吐血します。
仕事はキツいし、霊には嫌がられるわ、変な掛け声もあるこの業務。改善を求める声が出ているのになぜ変わらない? 職場の責任者・奪衣婆は口はかなりキツいけれど仕事がめちゃくちゃできるため、部下は何も言えないのです。しかしそこには裏があった⋯⋯!?佑は、冥界の非効率な業務の原因を見抜いては次々と効率化していきます。
三途の川の次は、閻魔の裁きを受けるために多くの霊たちが並ぶ閻魔殿。実情は全ての業務は閻魔氏の承認が必要で、霊たちの裁判も彼のワンマン体制。ハンコをもらうため右往左往する部下たちに負担がかかっています。
ここで、最も負担を強いられているのは実は部下ではないことを佑は見抜いていました。
また、霊を追い詰めて罰を与える闇冥処では、何人の霊を罰することができたかというノルマが重要視されます。同僚の不正に声を上げた部下を「助け合い」の精神論で黙らせスルーする事なかれ主義の上司がいました。
こんな非効率な環境を変えられない部下たちの心情を鬼希は代弁します。
やっかみや、仕事の抱え込み、余計な仕事を増やすなど、現世も冥界も非効率の原因は、上司が部下の時間を奪うことをなんとも思っていない「時間泥棒」だった点でした。佑が効率化にこだわる理由はただ一つ。仕事が早く終われば趣味に時間を割いたり、経費も抑えられ、気力も温存できる。佑の母親は幼い頃、彼に言いました。「こうして佑とゆっくりご飯を食べることもできる」。効率化は人に幸せをもたらすのだと全力で伝えてくる作品なのです。
【漫画】『あの世のタスク』第1話を試し読み!
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『あの世のタスク』
子新 唯一 (著)
“非効率”を前にすると吐血してしまうほど効率厨の二階堂佑はIT企業の会社員。 職場の効率化を訴えるも、上司とは折り合いつかず、衝突してしまう。 仕事を定時で上がり、帰宅も効率よく移動したはずなのに、駅の階段から落ちてしまった! 列車の中で目覚めた佑に声をかけてきたのは⋯⋯なんと地獄の鬼! そこで佑は新たな使命を与えられ⋯⋯!?
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
作者プロフィール
子新唯一
『抗いご飯』にてヤングジャンプ40漫画賞グルメ漫画賞を受賞しデビュー。現在、ウルトラジャンプ(集英社)にて『あの世のタスク』を連載中。
Twitterアカウント:@yuitility