子どもへの新型コロナワクチンの接種がなかなか承認されなかったように、成人に比べて判断が難しく慎重にならざるを得ない小児科。時間と手間がかかる割に診療報酬が低く、医療業界では不採算部門だと言われているそうです。小児科医の光と影を描く『プラタナスの実』。作者はドラマ化された『テセウスの船』の東元俊哉さんで、7巻が11月30日に発売されます。

『プラタナスの実(1)』(ビッグコミックス)

「ちょっとお腹が痛いみたいで元気がないんですよね」と、保育園から呼び出しを受けた母親。胃腸炎が流行っているので病院を受診してくださいと言われ、ある病院へ向かいました。

 

ネットの情報を見せようとする母親を制した医師は、ウイルス検査をすることなく、整腸剤を出して安静にしてほしいと診断しました。母親はどこか納得いかない様子で帰宅します。
この病院にアルバイト勤務するのが、主人公の小児科外科医・鈴懸真心(すずかけ まこ)。彼は患者の親の話を聞きつつも、患者自身である子どもにフレンドリーに接する受診スタイルです。

 

親に「早く診察してください!」と急かされる時も。その様子を見ていた同僚の医師は彼に言います。

真心さんってほんと優しいっスよね⋯
⋯患者に。

同僚は続けます。子どもは好きだけど、親が苦手だ、と。ネットの情報を信じたり、外来受診時間外に緊急性のない軽症で来院するコンビニ受診、モンスターペアレントやクレーマーなど。診療報酬の安さ、少子化、ただでさえ小児科は肩身が狭いのに「子どもが好き」なだけで戦うには、心のコスパが悪い、のだと。

 

翌日、真心が趣味のYouTube撮影をしていると、同僚が胃腸炎だと診察した子どもが嘔吐しているところに遭遇します。

 

治療後、「何もできなかった自分は母親失格です」と言う母親に、真心は小児科の難しさを語ります。

 

子どもの場合、成人と違って患者本人が異常を自覚できないことがほとんど。どこがどう痛むのかもうまく説明できないので、大人の見解が患者本人よりも強く反映されてしまう。結果、重病の発見が遅れることもあるのです。

真心はいつも、「あの時こうしておけばよかった」「こんなことさせなきゃよかった」と後悔する親に、「〜だったから助かったんです」と自責の念をもたせない声かけをしています。ゆえに患者だけでなくその家族からも信頼が厚く、「一生診てほしいお医者さん」と評されることも。
でも、彼自身には「家族の問題」がありました。ある時、北海道にいる父親から連絡が来て動揺する真心。父はかつて総合病院の院長だったのです。

 

経営を一番に考え、「医療も金」だと言っていた父。母はこの病院で共に働く小児科医でした。真心は幼い頃、両親が言い合っているのを兄と見ていました。

 

父は、自分の子どもを医者にするつもりで育てていました。けれど、「小児科だけはやめろ」と言っていたのです。それから年数が経ち、現在の父は、海外に出て行った兄は、どう変わったのか。真心と父、そして兄。この家族には小児科が抱える問題が絡みついて複雑な関係になっていました。

患者の気持ちを考える心と、経営とのバランス。温かく誠実な診療をすればするほど、採算が合わなくなる現実を周りから言われようとも、真心は子どもたちと家族に暖かな優しさを与え続けます。こんな小児科の先生ばかりなら救われるだろうな、と思うと同時に、生まれた後の子どもたちの健康を支える小児科にも政府はもっと目を向けてほしいな⋯⋯ともどかしく感じるのです。

 

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『プラタナスの実』

東元 俊哉 (著)

少子化、モンスターペアレント、コンビニ受診⋯⋯社会的問題が山積みな一方で、「もしも」の大病が患者の中に潜むことを決して見逃せない日々。「子供が好き」だけでは戦えない“心のコスパが悪い”医療現場に、やさしい笑顔で向き合う小児科医・鈴懸真心。“ゆりかごから大人になるまで”の子供たちと、その家族に寄り添う、暖かく誠実な、小児科医の物語。

作者プロフィール

東元 俊哉

北海道出身。代表作は『テセウスの船』(講談社)。TBS系『日曜劇場』にて2020年1月よりドラマ化された。2020年10月より『週刊ビッグコミックスピリッツ』にて『プラタナスの実』を連載中。
Twitterアカウント:@toshiya_paris


構成/大槻由実子
編集/坂口彩