「太田母斑(おおたぼはん)」を知っていますか。額や目の周り、頬や鼻にできる青紫色〜灰紫青色のアザです。『青に、ふれる。』は、顔に大きな太田母斑がある少女が見た目のコンプレックスに悩み、自分の顔をどう受け入れてゆくのかを模索する物語です。

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『青に、ふれる。(1)』(アクションコミックス)

顔の右半分に大きな青いアザのある瑠璃子はいつも笑顔の明るい女子高生。初対面の子にアザのことを聞かれても笑顔で答えられます。

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高二になった瑠璃子のクラスで担任になったのは、「顔面偏差値高め」な新卒のイケメン・神田先生。彼は初めて瑠璃子の顔を見た時、一瞬止まりました。

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その後、授業の合間合間で神田先生はいつもメモ帳に何かを書いていました。そのメモ帳をクラスメイトが拾うと、そこには全生徒の特徴がびっしりと細かく書かれていたのです。「高校教師でここまでする?」「こうでもしないと生徒のことを覚えられないかぁ」メモ帳の中身を見る女子たち。けれども、瑠璃子の欄には何も書かれていませんでした。

「なんで あたしだけ空欄なんですか?」
神田先生にメモ帳を返し、詰め寄る瑠璃子。

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先生のストレートすぎる言葉にショックを受ける彼女は、右半分の顔を見せながら涙を浮かべます。

あたしの顔初めて見たとき 一瞬止まってましたもんね
こんなアザのある顔 覚えるの簡単だったでしょ

 

アザを見られてるのも言われているのも気づいているよ。「アザだ」って気づくとすぐに目をそらす。「気にしてないよ」ってフリをして。見たし気になったからそういうフリをするんだよね。あたし、また人に気を遣わせてしまった。

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ネガティヴな気持ちが沸き起こる瑠璃子に「アザだったんですね」とおかしなことを言う神田先生。そして、

「その顔 僕には見えてないです」

キョトンとする瑠璃子に、彼は自分が「相貌失認」であると言います。

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彼は自分の顔はもちろん、他人の判別もできないので、普段は髪型や服装、持ち物で見分けているのだそう。そして、瑠璃子のアザは別のものに見えていたのだと言います。その言葉に瑠璃子は感情を大きく揺さぶられるのでした⋯⋯。

こうして、顔に太田母斑を持つ瑠璃子と、相手の顔が判別できない相貌失認の神田先生の交流がはじまります。二人の共通点は、その特徴をコンプレックスに感じているところと、それを周りに言えずにいること。

神田先生は相貌失認のことは、同僚の教師や生徒には公表していませんでした。そのため、彼は学内で探している人がうまく見つけられない時、瑠璃子を頼るようになります。なぜ公表してないのか彼女が訊ねるシーン。

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「先生のそれ わかるかも」共感する瑠璃子。アザのことで周りに気を遣わせてしまう自分。だから努力しなきゃと思ってきた。いつも自分に「気にしない」って言い聞かせていた。もっと強くならなきゃ、って。

でもそれだと孤独になる、と先生は言うのです⋯⋯。

現在では医療やメイク技術も進歩していて、太田母斑はレーザー治療やカバーメイクで消したり隠せることが作中で描かれます。でも、瑠璃子はそれらを選んでいませんでした。アザのある自分がネガティブなものに思えてしまい、アザは隠さないといけないの? こんな顔に生まれなかったらと悩むこともある一方、太田母斑もひっくるめて「あたしはあたしだよ」と自分のことを認めてあげようとする彼女。

・この特徴も含めて自分の顔だからありのままでいたい
・この特徴で悩むから隠したり変えて前向きになりたい

どちらも間違ってなんていないし、いずれか一方だけを選ばなくていい。両方の間で揺らぐ瑠璃子は、外見にコンプレックスを持つすべての人の内面そのもの。少女漫画もここまで踏み込むようになってきたのか⋯⋯と進化を感じました。

 

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『青に、ふれる。』

鈴木 望 (著)

生まれつき顔に「太田母斑(おおたぼはん)」と呼ばれる青いアザをもつ瑠璃子は、アザのことを気にしすぎないよう、周りにも気を使われないよう生きてきた。新たな担任教師の神田と出会った瑠璃子はある日、神田の手帳を目にしてしまう。
 

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鈴木 望
漫画家。太田母斑をもつ少女と相貌失認の男性教師との出会いを描いた『青に、ふれる。』を月刊アクション(双葉社)にて連載中。


©鈴木望/双葉社
撮影:川しまゆうこ
構成/大槻由実子
編集/坂口彩

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