自閉症の娘を育てる夫婦の日々を描いた『ムーちゃんと手をつないで〜自閉症の娘が教えてくれたこと〜』が累計30万部を突破しました。子育て中の母親だけでなく、父親からの支持も厚い作品です。


はじめての子・ムーちゃんが産まれて幸せいっぱいの主人公・彩。ですが心配なことがひとつ。夫が朝、出かける挨拶をしても返事をしないのです。

 

バイバイどころかパパママも言えない。彩は一歳半健診に行くと、同い年で単語を話せる子がいたり、親の後をついて歩けるのに驚きます。「ムーちゃんはよその子と少し違う気がする」。診察で発達専門の医師は言いました。「あの子はね ことばは非常に遅れます 多動傾向も続きます」。ムーちゃんは自閉症なの⋯⋯? と衝撃を受ける彩。

健診の保健師さんから児童デイサービスを紹介され、ムーちゃんを連れて向かった彩は、そこにいる子どもたちの姿にまたショックを受けます。

 

 

自閉症やダウン症、肢体不自由な子どもたちの通う療育施設だったのです。ここに入ることはムーちゃんの障害を認めること。認めるのは辛い。けれど、母子二人で遊んでいるだけではムーちゃんはなかなか成長できないのではないか⋯⋯彩は入園を決めますが、夫はムーちゃんに障害があるのを認められず、夫婦の仲には亀裂が入りかけます。

 

「普通の子育て」と比べてしまう苦しみ


療育施設に通い出したムーちゃん。でもなかなかついていけない様子に、彩は他の子との成長を比較して辛くなります。

 

「"ママ"じゃなくてもいいからムーちゃんの言葉が聞きたい」と強く願う彩。街中でたわいないおしゃべりをしている母子をうらやましく感じることも。「私とムーちゃんの居場所はどこにあるの?」と泣く彼女に夫は言います。

「特急みたいな人生だけが幸せなのか?
道草しながら歩かなきゃ見られない景色だってたくさんあるだろ?」

ムーちゃんのため、異動して出世コースから外れたと言う彼は「そういう生き方も幸せなんだ」と笑います。でも、いつまでも「赤ちゃんみたい」に思えるムーちゃんは、少しずつでも成長しているのでした⋯⋯。その成長ぶりがはっきりわかるシーンでは涙がこぼれます。
 

親や世間から理解されにくい障害児のこと


自閉症は病気ではありません。治らないの? と何度も聞いてくる母親に彩が怒りを抑えられなくなるシーンがあります。生まれつきの特徴なので、当然育て方のせいでもないと周囲に説明するのに疲れる彩。スーパーに行っても大声を出して言うことを聞かないムーちゃんに周囲の目は冷たく、通りすがりに文句を言われます。

 

強くなれ わたし
何があっても負けないママになれ⋯⋯!

自閉症などの障害を持つ子どもを見ないふりしてきた結果、どんな言動をするのかをあまり知らずに生きてきた人が多い。だからこそ、彩はこう覚悟を決めなければならなかったのです。
 

幼稚園探しで健常児との分断を感じる


ムーちゃんは通常の学級には入れないだろうから、普通の子と同じ環境でいられるのは幼稚園の時しかないと考える彩。でも、「加配」と呼ばれる補助の先生をつけてくれる園でないと通えません。市内の幼稚園のほとんどから門前払いをされた彩は、心が折れそうになります。

 

「この子は厄介者でしかないの?」愛情を込めて描写されているかわいいムーちゃん。なぜこの子が社会から受け入れられないのだろう、と悲しくなります。

周囲の人たちや幼稚園探しのエピソードを読むと、日本は自閉症などの特徴を持つ子どもたちを受け入れる社会の土壌が育っていないんじゃないだろうか、と愕然とします。健診時に医師はムーちゃんのような子をこう言いました。「人とはものの受け止め方がちがうんだよ」。療育施設の先生も言います。

 

障害を持つ子どもをこう受け止める人が一人でも増えたなら、世界は変わるはずです。泣きながらも前に進もうとする彩とムーちゃんにはもっともっと幸せをつかんでほしいな、と願いつつ読み進めてしまう本作。10月14日に6巻が発売された今こそ読んでみてください。

 

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『ムーちゃんと手をつないで〜自閉症の娘が教えてくれたこと〜』

みなと 鈴 (著)

あいさつができず、パパもママも言えない1歳半の娘、ムーちゃん。 そんなムーちゃんが「自閉症」かもしれないとわかって⋯⋯!?  理解を示さない夫と一度はぎくしゃくしたけれど、それでも前を向いて、ムーちゃんとともに生きていく決意をした母親の彩。自閉症の娘への愛がたっぷりつまった家族の物語。

みなと 鈴
1995年、大学在学中に「きみとぼく」(ソニーマガジンズ)よりデビュー。2006年に『おねいちゃんといっしょ』(講談社)が第10回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。現在、『ムーちゃんと手をつないで~自閉症の娘が教えてくれたこと~』を月刊「エレガンスイブ」(秋田書店)にて連載中。重度自閉症と定型発達の2児を育てながら漫画を描いている。
Twitterアカウント:@karin_jeen

 


©️みなと鈴(秋田書店)2018
構成/大槻由実子
編集/坂口彩