「この人には確かにこれが聞きたい」本
『佐藤可士和の打ち合わせ』

『佐藤可士和の打ち合わせ』佐藤可士和・著 日経ビジネス人文庫
こちらは、2014年に出た単行本の文庫版です。

「佐藤可士和の打ち合わせ」。創作論でもなく、仕事術でもなく、打ち合わせ。いやほんとに、それを確かにこの人には聞きたい!と思わせる、的を射まくった、超シンプルなタイトルです。
佐藤可士和さんは言わずと知れたクリエイティブディレクター。ユニクロ、セブンイレブン、TSUTAYA、今治タオルなど、佐藤さんが触れたものはすべてグローバルなアイコンへと昇華していきます。昨年の国立新美術館の「佐藤可士和展」は見ました? もう圧巻でしたよね。

でも彼は完全なるアーティストではなく、作品はすべてクライアント仕事です。ということは、クライアントやスタッフなどたくさんの人たちと、「打ち合わせ」をし続けているわけです。1人で勝手に作れるものではありませんから。クライアントの思いやブランドの価値を理解して、咀嚼して、その上での世界観を提案するには、絶対に打ち合わせが必要です。そして「打ち合わせ」とは、佐藤さんほどビッグな仕事をしていなくても、働く人は皆普通にしているもの。佐藤さんがあんなすごいブランディングを成功させている打ち合わせのやり方には、普通の働く人にとってもヒントがあるに違いないのです。

私は常々、著者のど真ん中にあるもの、根幹をなすもので、本を作りたいと思っています。上手く言えないのですが、その人が持つ最上のものを、人々に差し出してほしいという気持ちです。クリエイティブデイレクターの“ど真ん中”を、「打ち合わせ」という身近なテーマで表現し得ることを思いついた編集者の方、本当にすごいなあと思います。(ちなみに、『佐藤可士和の超整理術』というベストセラー本もあります。特に、一度でも佐藤さんの仕事場の写真を見たことがあったら、必ずや読みたくなる本です。笑)

 

日常に新しい視点をインストールできる本
『アースダイバー』

『アースダイバー』中沢新一・著 講談社
折り込みの縄文MAP付き! 本文にもふんだんに地図や写真があって楽しい。大阪編、東京の聖地編、神社編などもシリーズ化されています。

この本を読む前と読んだ後では、目に映るいつもの街がガラッと変わって見えます。確実に。

縄文時代、東京は今よりも内陸までずっと海でした。堅い土でできている地層は岬になり、砂地の多い地層はえぐられて海水が侵入。それが複雑に入り組んでいたのです。本の付録の縄文地図「トウキョウ アースダイビングMAP」をみて見ると、上野駅、東京駅、品川駅などは完全に海の中に沈んでいて、それより内陸も吉祥寺あたりまで岬と海・川の連続となっています。

縄文時代、岬にあった古墳や貝塚は、時代を経て寺や墓地などに変化し、といった具合に、縄文の土地の記憶は、実は現代の東京にも綿々と受け継がれている。その証拠を、縄文地図を片手に東京の街を散策=アースダイビングしながら、中沢新一さんが独自の人類学的視点で見つけていきます。『アースダイバー』を初めて読んでからもう18年経ちますが、いまだに「ここは歓楽街だから、縄文時代には湿地だったんだろうな」とか、「この物件の場所は、縄文時代に岬だったところだ。地盤硬くていいな」など、自分の中にインストールされた縄文地図がいろんな瞬間に立ち上がり続けています。

自分に新しい視点、それも、あってもなくてもいいんだけど、あったら絶対面白い視点をくれる本なんて、最高じゃないですか?