推し同士の対談本
『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』

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『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』 河合隼雄、村上春樹・著 新潮文庫
文庫で買ったということは、推しとか言いながら、初版で買っていなかったということか!

「対談本は売れない」とは、書籍の企画会議でたまに聞かれる言葉です。もちろんすべてではありませんが、著者が単独で書いた本より、対談本のほうが売れたという試しはほとんどないからなのでしょう。

確かにこの本より、『ノルウェイの森』や『こころの処方箋』のほうがそりゃあ売れたでしょう。でも、私、この本作りたかったです。村上春樹さんと河合隼雄さんのファンだから(笑)。

楽しいじゃないですか、大好きな小説家と文化人が、“物語”について語る対談。村上さんが河合さんを信用して心の奥底をちょっと見せている感じ、河合さんが冗談言いながらも目は鋭くその奥底を見ている感じが伝わってきたりして。

その場にいて2人の対談を聞けるなんて、なんと贅沢なことか。編集者の役得ってやつです。そして、そういうふうに楽しい気持ちで作った本は、結構売れたりするものなんですよね。
……なんて夢みたいなことを書きましたが、実際は二大巨頭にめちゃめちゃ気を使ったり、話を要所要所でうまく回さなくてはならなかったり、お二人がそれぞれ入れてきた朱字をどうするか悩んだり、担当編集者には並々ならぬご苦労があったのかもしれません(笑)。それでもやっぱり、推し同士の対談本、一度は担当してみたいです。

 

誰かを助ける本
『ダライ・ラマ こころの育て方』 

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『ダライ・ラマ こころの育て方』ダライ・ラマ14世、ハワード・C・カトラー・著 今井幹晴・訳 求龍堂
カバーはボロボロ、背表紙は変色しています。2000年の本ですが、ネット書店で新品は売っていないようです。

20代の頃、とても辛いことがありまして。辛いときは、本が読めないんだということがそのときにわかりました。しばらく読書から離れていたのですが、ある日、当時勤めていた会社のそばの書店で、ふと目に入ったのがこの本。学生時代によく通った喫茶店の壁に、ダライ・ラマ法王のポストカードが貼ってあり、「この人はなんていいお顔をしているんだろう」と見るたびに感じていたことを、表紙のご尊顔を見て思い出したのです。

この本は、アメリカの精神科医が法王との対話を重ね、プライベートの出来事も交えながら、リアルに親密に法王の思想を伝える、いわゆる自己啓発書です。現代社会を生きる合理的なアメリカ人の繰り出す質問に、ダライ・ラマ法王はある時は茶目っ気たっぷりに、ある時は深い洞察をもって、ある時は正直にわからないと答える。法王の人間的な魅力と、彼が説く仏教思想――すべては繋がっていて、ものごとの要因は一つではない――が、当時の私を本当に楽にしてくれました。まごうかたなき、自分を助けてくれた本です。

法王の著作はいろいろありますが、法王はあまりに高僧なので、説かれる仏法が結構難しくて。この本では、精神科医が法王と私のような一般読者との橋渡しをしてくれるので、とてもスムーズに読めます。

20代の私が1冊の本のおかげで人生の苦しさから徐々に立ち直っていったように、私が編集した本が誰かを助けることができたなら、こんなに嬉しいことはないんじゃないかと思います。
 


構成/山崎 恵
 

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