若い頃、さくっと立ち飲みするのに憧れたことはありませんでしたか? その後、見事デビューを果たして立ち飲みは日常の一部になった人もいれば、未だに「勇気がわかない」と二の足を踏んでいる人もいるのではないでしょうか? イブニングで連載中の『立ち飲みご令嬢』の主人公は、ぱっと見は立ち飲みとは程遠く、気品に満ちあふれたお嬢様。そんな彼女がふとしたきっかけで立ち飲み屋に足を踏み入れてしまったら……。


食の英才教育を受けた令嬢は、超辛口美食家!


とある立ち飲み屋に佇む、一人の女性。少し近寄りがたいオーラを放っているものの、ぱっと目を引く美人でお金持ちそう。庶民的な雰囲気の店内で明らかに浮いている様子です。そんな彼女は何者で、なぜ一人で立ち飲み屋にいるのでしょうか?

 

彼女は、ミシュラン店オーナーを父に持つ神乃美子(かんのみこ)。幼少期から食の英才教育を受け、来る日も来る日も食の採点をしてきた美食家です。辛辣なコメントで一流シェフをめった切りにしてしまうことから、“氷の味覚女王”という異名を持っています。

 

毎回、相手を完膚なきまでに叩きのめしてしまうのですが、彼女の本音は正反対。シェフは真面目に頑張っているし、いい食材も使っていて、料理は普通に美味しいと感じています。しかし、“氷の味覚女王”の評判が高まれば高まるほど、周囲は彼女の手厳しいコメントを求めてきます。そこで、その期待に応えなければと、いつも強い口調でコテンパンに批判してしまうのでした。そんな彼女の希望は美味しいものを「もっと気楽に食べたい」ということ。ある日もまた、ひどい物言いをしてしまった帰りにふらりと居酒屋に立ち寄ったつもりが、そこは立ち飲み屋だったのです。

 


偶然入った立ち飲み屋で、自由な楽しみ方を知る!


美食の世界では有名な彼女ですが、気楽に飲める立ち飲み屋では、彼女を知る人は皆無(のはず)。ここでなら周囲の人目を気にせず、自分が食べたいものを自由に食べることができる! ということに気づいてしまったのでした。

ある日、とある立ち飲み屋にいた美子は、「さも飲み慣れていますよ風」を装いながら一杯目のビールを味わっていました。いよいよ料理のオーダーに入るわけですが、壁に貼られた短冊メニューをじっくり観察して、最初の一品として選んだのは「ポテトサラダ」。居酒屋メニューの定番であるからこそ、店の特徴や力量が推し量れるというものです。

 

この店のポテサラは、美子的には大当たりで、ビールがぐいぐい進みます。美子の豊富な食の知識によると、ポテサラはかつて高級料理で、日本では大正時代に帝国ホテルで考案されたとのこと。本作では、さまざまな料理のうんちくを美子が教えてくれるので、読み手も「へー」の連続。さすが、食の英才教育を受けてきただけのことはあります。

 

美子は“氷の味覚女王”なだけあって、周囲に恐れられているので、人とコミュニケーションを取るのが苦手な様子。「フレンドリー」は自分の対義語という自覚があるようですが、立ち飲み屋では、たまたま隣り合った客と会話を楽しめるのも醍醐味のひとつ。美子は立ち飲み屋通いを続けることで、少しずつ飲みの場でのコミュニケーションの楽しさを見つけていくことになります。

 

長引くコロナの影響で、外に飲みに行く機会がめっきり減ってしまいました。だからこそ、本作を読んでいると、こうした飲みの場での楽しさが鮮明に蘇ってきます。立ち飲み屋の魅力は、サクッと飲み食いして切り上げられるところにもあります。コロナ禍であっても、たまには美子のように短時間の滞在を満喫してもいいのではないでしょうか? というか、美子のすがすがしい飲みっぷりと満面の笑顔を見ていると、「私もこういう店で飲み食いしたい!!!」という衝動に駆られまくるはず。

食の英才教育を受けてきた美子の、美食家という立場から離れて、素直な気持ちで語られる立ち飲み屋メニューの味表現やちょっとしたうんちくはかなり説得力あり。ご令嬢×立ち飲み屋というギャップ萌えや、ちょくちょく挟まれるコメディ要素も心地よく、読んでいて幸せな気持ちになれる作品です。10月21日に単行本1巻が出たばかりなのですが、早速重版がかかっているとのこと。きっと、多くの人が楽しい立ち飲み屋でのひとときを欲しているからではないでしょうか。

 

【漫画】『立ち飲みご令嬢』第2話まで試し読み!
▼横にスワイプしてください▼

続きはコミックDAYSで!>> 

『立ち飲みご令嬢』
松本明澄 講談社

ご令嬢のヒミツの趣味は立ち飲み屋巡り!!
読めば行きたくなる&食べたくなるご令嬢╳立ち飲み屋グルメコメディ!

「今宵も乾杯あそばせ!」気品あるご令嬢・神乃美子(かんのみこ)さんだけど、見た目がちょっと怖くて周りから恐れられてしまうのが玉に瑕。
そんな美子さんが最近ハマっているのは“立ち飲み屋”!
ポテトサラダ、ナマコ、焼き鳥、唐揚げ……。

これは立ち飲み屋が最も似合わないご令嬢が、最高の立ち飲みグルメと仲間を見つけるストーリー!


作家プロフィール
松本明澄 まつもと・あすむ

京都府出身。2015年、「月刊少年マガジン」にて『コンビニお嬢さま』(全6巻)で連載デビュー。現在、「ヤングアニマルZERO」(白泉社)で『百鬼夜京』 も連載中。