人の心を持たないはずのロボットが、なぜ人を癒すのだろうか。是枝監督で映画化もされた『空気人形』の作者の新シリーズ『機械仕掛けの愛 ママジン』は、そんな問いを投げかけてくるようです。この作品は、手塚治虫文化賞を受賞した『機械仕掛けの愛』で好評だったエピソード・ロボット親のママジンと子どもたち家族のストーリーで、1巻が11月30日に発売されました。『機械仕掛けの愛』同様、やっぱりじんわりと泣けてくる作品です。

『機械仕掛けの愛 ママジン』 (1) (ビッグコミックス) 

授業参観が憂鬱な小学生のジョージ君。彼は両親がいなくて、ロボットのママジンに育てられているのです。

 

孤児たちを集めて少数の家族単位でロボットが育てる「孤児家」制度。ジョージ君が住むのは"練間区"のママジン家。今夜も、ママジンが腕をふるった美味しい料理が食卓に並びます。

 

子どもたちの喜ぶ顔を見ながら「ママジンも食べようかな」と料理を作ったママジン自身も食べていますが、実は味がわからないのです。

 

ママジン家の中を、小型カメラで勝手に撮影していたカンダ博士は言います。ママジン家のような孤児家は練間区だけでも20軒以上あるが、どのロボットにもママジンのような人間らしさはない。機械的に「ゴハンヲ食ベナサイ」「寝ナサイ」など指示するだけだ。同じCPUで同じプログラムを組んでいるのに⋯⋯。
他のロボットと違うところに興味がある、という博士にママジン家の子どもたちは言います。

 

子どもたちはママジンがロボットであることはわかっていますが、それでも他人からロボットだと呼ばれるのは嫌なのです。

 


寝る前、布団の中で子どもの一人に「ロボットなの?」と聞かれ、抱きしめながら答えるママジン。

ママジンはね⋯⋯みんなのお母さんだよ。

他の子が「明日、授業参観だから来てほしい」と頼むとママジンは「もちろん!!」と答えます。でも、ジョージ君は⋯⋯。

 

ママジンのことは好きでも、友達に見られるのは恥ずかしい。大きくなってきた子どもたちの中にはそんな複雑な気持ちを持つ子もいました。

ママジン家で育った大人の一人・サンゴ君はロボット工学を学ぶ道に進み、味覚を失った人に味を取り戻してもらう「味覚デバイス」を開発しています。被験者からの喜びの声を見ながら、いつかはママジンにも味覚を感じてもらいたい、と願っています。すると、カンダ博士がやってきて言います。

 

そして授業参観当日、ママジンは親たちの中で目立ちまくり。親がロボットだと絶対に知られたくないジョージ君はママジンに見つからないように隠れますがバレてしまいます。そこで起きたこととは⋯⋯?

本作ではジョージ君ほか、ママジンと子どもたちのエピソードが語られます。片思いに悩むアンナちゃん、自分の出自を知りたくなったシンジくんたちと関わったママジンはこう言います。

私もただの水じゃなくて みんなと同じ涙が流せればいいのにね。

彼女の目から流れるのはただの水。心を持たないロボットなのだから涙を流すはずがないのに、なぜか子どもたちに寄り添っているように見えるのがママジンの不思議なところ。「子どもたちに共感せよ」というプログラムを組まれているのでしょうか⋯⋯。

ロボットやシステム自体にはもちろん感情がないのですが、作り手や働く人たちの感情や願いが込められているのだ、とも本作は教えてくれます。病院の「こうのとりボックス」や、2歳児までを育てる「乳児院」、孤児の姓名と本籍地を市町村長が決める「戸籍法」。そして、彼らを少数単位で集めてロボットが育てる「孤児家制度」。自分が生まれ育つまでにこれらのシステムを通ってきたと知ったシンジくんに、ママジンは言うのです。

よかったね。みんな大切に扱ってくれて。

ロボットでも、システムの中で育てられた子でも、「誰かのためになる」存在になれる。ママジン家で育ったサンゴ君が「ママジンに味覚を感じてもらいたい」と研究者になったところにそんなメッセージを感じます。ママジンも「誰かのためになりたい」というプログラムを組まれているんじゃないでしょうか。だから、心を持たないはずなのに、心があるように感じられ、彼女の一挙一動に癒されるのです。

 

【漫画】『機械仕掛けの愛 ママジン』第1話を試し読み!
▼横にスワイプしてください▼

『機械仕掛けの愛 ママジン』
業田 良家 
(著)

お母さんロボット・ママジンは、20年にわたって38名の子供たちを育ててきた。ココロを持っていなくても、自分の作る料理の味がわからなくても、みんなの大好きなお母さんだ。巣立った大人が、育ってゆく子供が、みんなママジンと家族を想っている――ママジンは、なんでこんなにやさしいんだろう。普通なようで、とっても特別な、家族の物語。『機械仕掛けの愛』新シリーズ。

業田 良家
映画化された『空気人形』や『自虐の詩』が代表作。ビッグコミック増刊号(小学館)で2010年から2021年まで連載された『機械仕掛けの愛』の続編として、新シリーズ『機械仕掛けの愛 ママジン』が同誌にて現在連載中。



(c)業田良家/小学館
構成/大槻由実子
編集/坂口彩