梅安はダークサイドの人。だからこそ観る人は夢を見られるのだと思う


――豊川さんは、子どもの頃からこの『梅安シリーズ』をご覧になっていて、制作発表のときに「好きな作品です」とおっしゃっていましたが、実際に演じてみて発見した魅力について教えてください。

豊川:最初の会見のときに、キーワードとして【ダークヒーロー】というのがありましたが、まさしく私の中で【藤枝梅安】というキャラクターはダークヒーローなんです。映画の中でも「人は善いことをしながらいつの間にか悪いこともしている。その一方で、悪いことをしながら知らず知らずのうちに良いこともする」とありましたが、じゃあ“善いこと”“悪いこと”ってなんだと、それを観る者、読む者に問いかけていくのが池波先生の原作であり、今まで私の大先輩方が演じてきた藤枝梅安だと思います。

 

今回演じてみて改めて感じたのは、梅安はやはりダークサイドの人だということ。梅安がダークサイドにいることで、観客の方々たちは安心できるのではないでしょうか。仮に梅安が日の当たる場所にいたとしたら、「ちょっと違うのでは」と思うはずです(笑)。ちゃんと自分の身分をわきまえながらダークサイドにいることで、観る人が納得して、その物語の中に入っていける。言い方を変えると“夢を見られる”のではないでしょうか。そこがいいのかなと思いました。

 

今までとは違う二人の関係、新しいバディの形


――彦次郎は今回初めて梅安よりも年下の設定なので、今までの梅安と彦次郎のバディ感とは違っている印象でした。愛之助さんはどんなバディを目指して彦次郎を演じられましたか?

愛之助:バディなんですけれど、厳密に言うとバディではないんですね。互いに独立して仕掛けを依頼されている、たまたま気が合うから一緒にいる関係。というか何か通じるところがあって、梅安さんと一緒にいるという。ふたりで台本読んでいて気が付いたのですが、ふたりだけの会話なのに「そうだよね、梅安さん」って、何度も繰り返すんです。

ふたりでいるのに梅安さんのことを何十回も「梅安さん」と呼ぶところに、実は意味があるんだと思いました。信頼関係というんですかね……。確かめているんです。そこに私はすごくしびれました。お互い、信頼と大きな愛があるんだけど、孤独でもあるという。そういう意味ではあまり(バディというのを)意識せずに脚本を読みました。自然体であるように努めましたね。