小説だから描ける加害者の生々しい感情
2位 『生皮』井上荒野
昨年から今年にかけて芸能・映画・演劇界でのハラスメント、性暴力の告発が相次ぎました。井上荒野さんにミモレのインタビューさせていただき、芸術の世界で起こりやすい背景を伺ったところ「その場がつくる空気」の話をされていました。(井上荒野さんインタビューはこちら>>)
『生皮』の気持ち悪さは、加害者である月島光一が下衆なスケベオヤジではないところにあります。ある面では“まとも”で“真っ当”な人だからこそ気持ちが悪い。
この本がドキュメンタリーなら、被害者側のコメントを集めて書かれていたかもしれない。フィクションだからこそ、被害者・加害者・傍観者の思考回路が描けるわけで、月島には月島なりの、被害女性は被害女性なりの、その時その時の論理的で正当な理由づけがあるんですよね。あるいは後から正当化して思い込もうとしたり。
つい先日も「じゃあ役員の横は新入社員の女子で……」と言いかけて、飲み込む。いかん、いかんよ。私の頭の中にも若い女の子=華やか、おじさんの隣=若い女の子がよかろう、みたいな思考回路が刷り込まれているなと思ったのです。
「その場の空気」を私たちも生み出していると気付かされた、折に触れて思い出す一冊です。
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