地方の団地で起こった凄惨な事件の背景を描く大著
1位 『八月の母』早見和真
あまりに苦しくあまりに嫌な話です。翌日以降にも気持ちを引きずるので読み始める日には注意をしてください。早見和真さんの代表作となるであろう渾身の一作。『八月の母』早見和真
愛媛県伊予市の市営団地で起きた「少女暴行殺人事件」という痛ましい実際の事件にインスパイアされて、母娘孫の3代の家族の歴史とその事件の過程を描く長編。比較的裕福な家で生まれた一人の少女が市営団地の一室で、その部屋で暮らす母親を含む少年少女に集団で長時間にわたって暴行を受けて亡くなった事件。中心に描かれるのは、暴行を加える側になる母と娘の物語です。
地方都市の閉塞感、シングルマザーの貧困。這いあがろうともがいても、もがいても落ちてしまう蟻地獄。
いや、しんど。
この本を読み切った自分を「よくがんばった」と褒めて、強く抱きしめてあげたくなる、そんな怪物本です。
以上、今年を代表する5作品を紹介しました。
今回選んだ小説に、偶然にも共通するのはある出来事を「あっち側とこっち側」から描いた構成になっている点です。どっちにも言い分がある。あっちの見え方とこっちの見え方の違い。両方見えているのは、読んでいる“私だけ”。そんな楽しみ方のできる小説ばかりでした。
社内で誰かが誰かを評するときに、「あいつはまだ想像力が足りてない」「仕事はできるんだけど、想像力に欠けるとこあるよね」そんな言い方をよく耳にします。想像力があるって思われる人って例えばどんな言動するんだろう? 相手の気持ちを想像する力ってどうしたら身につくのさ? とも思うのです。
読書で身につくかというとそう簡単でもない気もしていて……。これらの小説を読んで思うのは、あちらの気持ちは想像しても想像しきれなかった。つまり、想像力とは、自分の想像はきっと合ってないと思えることなのかもしれません。
さて、2022年みなさんのベストブックはなんですか?
今年も一年、ものすごくがんばってやり切ったみなさんに心からお疲れさまを。そして良いお年をお迎えくださいませ。
Podcast「真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室」でも最近のおすすめの本について語っていますのでぜひチェックしてください。
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