明かされる真相と、暗い決意


終業レポートを書き、制服を着替えて急いでカフェに行くと、前田このみは何も見ていない目で雑誌コーナーに佇んでいた。

セミロングの髪は一見綺麗に整えられていて、服も可愛らしいデザインだったが、対照的な冷えた眼差しが、どこかちぐはぐな印象を与える。30歳くらいだろうか。すこし丸みのある体型が、若いだけの女の子にはない、ひとさじの緩い色気を感じさせた。

「お待たせいたしました。今日はすこし特別なことがあって、いつもより時間がかかってごめんなさい」

ペコリと頭を下げる紗季を、このみは不満げに一瞥する。

「逃げたら明日こそ、会社に乗り込もうと思っていたのよ」

「……逃げる理由、ないですから。コーヒーを買ってきてもいいですか? お待たせしたお詫びに買ってきますね。何がいいですか?」

このみは小さく首を振ると、近くのソファ席に背筋を伸ばして座った。紗季は急いでコーヒーをふたつオーダーすると、向かい側に座る。このみが元夫の彼女だとして、どうにも腑に落ちない雰囲気だ。

「本音で話しますね。あの人と、別れてください。私、高梨さんとお付き合いしているんです。国際遠距離恋愛ですけど、2カ月に1回は私が行くし、彼の年1回の一時帰国は必ず私と過ごしてくれます。

彼、いつも言うんです。『あいつが籍さえ抜いてくれればなあ、すぐにでもこのみと結婚したかったよ』って。あなた、彼の人生の邪魔をしてるんですよ、わかってます? 意地だか腹いせだか知らないけど、それで離婚しないとか、お互いに時間のムダですよね?」

 

紗季は、眩暈を感じながら、熱いコーヒーでとりあえず気分を落ち着ける。なるほど、そういうことね。病的な女好きの元夫は、駐在中にも関わらず手広くやっているようだ。当分結婚する気がないから、会社に関係のない女には、あろうことかまだ既婚者だと言って牽制しているのだろう。

「ええと、前田さん。まず誤解があるんですが、私、もう高梨とは数年前に離婚しています。だから、あの、高梨はもう独身なんです」

「ええ!? 嘘、なんでそんな嘘つくの? あなたサイコパス居直り妻? 結婚してすぐ仮面夫婦になったのに、6年も籍を抜かないんですよね?」

紗季は、うーん、と唸ってから、ハンドバッグを取り出すとごそごそと保険証を取り出した。そこには旧姓が印字されている。

 

「ね? 被扶養者でもないでしょ? 独身、国民健康保険。高梨の妻なら、あの会社の保険証のはずよ」

このみは、保険証をまじまじと見つめた。顔からみるみる血の気がひいていく。紗季は、黙って、熱いコーヒーを改めて差し出した。