米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。
フィクションではあるけれど、まるでドキュメンタリーのように感じられるシーンもある映画『ファミリア』。
役所広司さんが演じる、妻を早くに亡くしてひとりで山里に暮らす陶器職人の主人公と、隣町に住むブラジル人青年たちとの交流、そして赴任先のアルジェリアから一時帰国した息子との関係を描いた作品です。
ブラジルからの移民の人たちが住む団地でのパーティの描写などがとにかくリアルで、彼らのコミュニティをそのまま撮影しているかのよう。
ブラジル人青年と半グレとの生半可ではないトラブルを見ながら、外国で生きていくことって本当に簡単じゃないと思わされました。
ブラジル人青年は半グレに追われたときに救ってくれた主人公を父親のように慕い、難民出身の彼女を連れて帰国した息子は、一流企業のプラントエンジニアを辞めて父親の仕事を継ぎたいと話します。
ちょっとずつ何かが欠落している人たちが、国境や言葉を超えてつながろうとしたとき、アルジェリアに戻った息子に悲しい出来事が起こってしまうーー。
これも争いが絶えない、今の世界の現実なのだと思います。
役所さんはひたすら息子のことを思って行動する父親を演じていて、田舎町に住む陶芸家そのもの。
吉沢亮さんもどんどん本当の息子に見えきました。主人公の友人を佐藤浩市さんが演じ、『いのちの停車場』の成島出監督のもとに味わいのある役者さんたちが集まっています。
半グレのリーダー役を青い髪で演じた、MIYAVIさんの存在感も素晴らしかった!
彼のお芝居によって、目を背けたくなるような描写がより生々しいものになっているような気がしました。
たくさんの移民が渡ったブラジルは、日本と深い関係のある国ですよね。
私もブラジルのコーヒー農場で働く家族を描いたNHKのドラマ『ハルとナツ 届かなかった』に出演した経験があります。
撮影のために東山農場に滞在してお世話になったことを、懐かしく思い出しました。
一年の初めに観る映画としておすすめしていいのかちょっと迷ってしまったほど、ずっしりと重いテーマを描いた作品かもしれません。
でも身近にあるのに知らない世界を描いた、今観るべき映画とも言えるのかなとも感じました。
今年もこの連載では映画やドラマ、舞台の感想はもちろん、新しいチャレンジについても報告できたらと思っています。みなさんのおすすめの配信ドラマなどがあったら、ぜひ教えてくださいね。23年もどうぞよろしくお願いします!
<映画紹介>
『ファミリア』
陶器職人の主人公・誠治と、海外で活躍する彼の息子・学、そして主人公が知り合う在日ブラジル人青年・マルコス。3人の関係を軸に「家族」という普遍的なテーマを描く。 主人公・神谷誠治を演じるのは役所広司。息子の学には、NHK大河ドラマ「青天を衝け」に主演した吉沢亮。実際に日本で暮らすブラジル人の若者や、日系4世らのヒップホップグループGREEN KIDS、“サムライギタリスト”として世界的に知られるMIYAVI、そして佐藤浩市、松重豊、室井滋らベテラン俳優が出演。現在、約280万人の外国人が暮らしている日本。その中のブラジル人に光を当て、実際に起きた事件などをヒントにオリジナル脚本を映画化した。新宿ピカデリーほか全国公開中。
構成/片岡千晶(編集部)
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