ジャーナリズムとは「時事問題の報道・解説・批評などを行う活動。またその事業」という意味だそうです。以前は、テレビや新聞よりも下に見られがちな週刊誌でしたが、ここ数年は、彼らにしか書けない報道・解説・批評を忖度なしに世間に出す切れ味の鋭さに、見る目を変えた人もいるのではないでしょうか。週刊誌のベテラン編集者が自身の再起をかけてある事件を取材する『ジドリの女王 ─氏家真知子 最後の取材─』は1月23日に1巻が発売されたばかりです。
氏家真知子は、次々と芸能スクープを飛ばしまくる週刊誌編集者。今日も人気俳優の隠し子スキャンダルをスッパ抜いて編集部内をざわつかせていました。でも、渾身のスクープは同僚の若手記者がぶっこんできた「中学生心中事件」という事件で一瞬でかき消されます。彼女は知っていました。
編集部内の特集班では、世間からの注目を集めるこの事件の特集を組むことになり、芸能担当なのに”ジドリ(地取り)要員”に手を挙げる真知子。向いてない事件やネタに手を出して横取りするのか、と他の記者からは非難されるも、彼女は言います。
でも今 この記事が注目されてるってわかってて 芸能だけ載せ続けるのって馬鹿らしくないですか?
人気商売なんだから人気のあるもの取り上げるべきじゃないですか
事件取材は、化粧した女が髪振り乱していくところじゃねーんだ、と怒鳴られた真知子は、その言葉に応えるように、自分の気合いを「ある形」で見せるのです。
事件のスクープを取った男性記者・小谷田は、事故現場の撮影時に怪我をして検査入院していました。真知子が会いに行くと彼は言いました。これは「心中事件」ではなかった、中学生二人が別々に変死した事件だったのに、編集部内で勝手に心中と付け加えられてリリースされたのだ、と。
他メディアは後追いでこぞって「心中事件」として報道し、SNSで盛り上がってしまった。
どうしよう 僕のせいで
子供たちが自殺したように思われてしまった
どうしよう 誤報なんて
人の命を書いた記事なのに
ショックを受けている彼に真知子は言います。
そして二人は事件現場に向かい、事件の真相を暴きに行くのです。現場は、山近くの地方の町。土着民が暮らす山と移住者が暮らす町、二つの異文化が隣り合う独特な土地でした。住人たちに取材をするうちに見えてきたのは、「山」と「町」の間にある格差のようなもの⋯⋯。
事件の真相を追う中、週刊誌編集者の視点から、真知子が己の仕事について語るシーンが多く出てきます。地上波のキー局記者に会った時、「あなたは事件を解決したいと思っていますか」と問われ、真知子は「いいえ、思ってません。事件を解決するのは警察の仕事です」と即座に答えます。
時系列が微妙に事実と違うインタビュー記事を出した真知子に、疑問を感じる小谷田が「ジャーナリズムって何ですか」と言うと、彼女は「事業」だと言い、「週刊誌はテレビや新聞と違って売れれば事件を追っていける」のだと続けます。
警察の発表やテレビ・新聞の記事には書かれない事件の本質を引きずり出し、世間に見せたいという真知子の欲望。根底には編集者として返り咲きたいという思いと、同じく編集者だった父親の言葉があったのです。
時に取材相手を煽ったり、警察の捜査に割り込んだりとヒール役っぽい彼女ですが、実は信念と正義を奥底に秘めた姿は、週刊誌そのもの。タイトルに”最後の取材”とあるのが不穏ですが、真知子のジャーナリスト魂を感じてください。
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『ジドリの女王~氏家真知子 最後の取材~』トウテムポール (著)
週刊誌編集者の氏家真知子は、芸能ネタでスクープを連発し、業界内でも知られた凄腕編集者⋯⋯だった。ある時、自分がメインを張れなくなったことを悟ったタイミングで、地方の事件に心を奪われる。直感的にこの事件は自分が追わなきゃと思った真知子、ここから彼女の逆襲が始まる。
トウテムポール
代表作は『東京心中』(EDGE COMIX)、『或るアホウの一生』(小学館)、『三つ子の魂百閒まで 内田百閒物語』(KADOKAWA)など。現在、「モーニング」(講談社)にて『ジドリの女王 ─氏家真知子 最後の取材─』を連載中。
Twitterアカウント:@teddy_pole_boy
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
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