3月8日「国際女性デー」に合わせて観たいエンタメ作品を、あらゆるジャンルに精通するプロの視点でセレクト! ライター・ヒオカさんが推薦するのは、柚木麻子さんのエッセイ集『とりあえずお湯わかせ』です。今回は、私たちの中にも知らぬ間に染み付いている、女性への偏見を浮き彫りにする2篇のエッセイをご紹介します。

3月8日「国際女性デー」とは?
国や民族、言語、文化、政治といった
あらゆる違いを超えて、これまで女性たちが達成してきた成果を讃える日です。

発端は1908年、米・ニューヨークの女性労働者が起こした待遇の改善を求めるストライキ。これを機に、女性の権利や政治的・経済的な社会参加を求める動きがヨーロッパ全域へと広がっていきます。決定打となったのは1917年、第一次大戦下のロシアで起こった「二月革命」です。女性たちの“パンと平和”を求める抗議は、男性たちや兵士らをも巻き込んだ民主革命へと発展します。結果、ロシア皇帝による帝政は崩壊。暫定政府は女性の選挙権を認めました。

この二月革命が起きたのが3月8日(当時のロシアではユリウス暦2月23日)でした。国際婦人年である1975年に、国連はこの日を「国際女性デー」とすることを発唱。77年に制定されました。

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『とりあえずお湯わかせ』

とりあえずお湯わかせ』柚木麻子・著 NHK出版 1650円(税込み)

『とりあえずお湯わかせ』は、小説家である柚木麻子さんの初のエッセイ。

この本は主にコロナ禍の日記です。出産・育児でぶち当たるいろんな出来事。そして直面する社会の理不尽さ。保育園に40個落ち、肺に基礎疾患がある中で厳戒態勢でのワンオペ育児、街に出かけたら見知らぬ男性にベビーカーを蹴り飛ばされる。

何度ももう無理! となりながらも、それでも、生き抜く。パワフルで、でも繊細で、でもやっぱりめっちゃパワフル。そんなひとりの女性の生き様が描かれています。

 

柚木さんの小説にはよくおいしそうな料理やお菓子の描写が出てきます。ご本人もお料理やお菓子にとても精通されていて、本の中でも食にまつわるエピソードがたくさん出てきます。

自分の暮らしを少しでも、豊かに、楽しく。そういった工夫をするのが本当にお上手。しかし、その中でも政治や社会に対する違和感を忘れません。おかしいことを飲み込まずに、「こんな世の中はおかしい」と認識していきます。


人命よりも国益を優先する政策のしわ寄せは生活者が全部引き受け、自己責任論で弱者の声を封じ込めていく有様は今、毎日流れているニュースそのものだ。


楽しむことを忘れたくない。迷惑をかけたいわけでもない。でも、社会への疑問や怒りもなかったことにもしたくない。(『とりあえずお湯わかせ』より)


そんなこの本には女性をエンパワメントする言葉がたくさん出てきます。
今回紹介したいのは、その中でも特に印象的だった「インスタ叩き叩き」と「幸せそうで、何が悪い」という2つの章です。