「お前、モラハラっぽかったもんな」


長身に整った顔立ち、裕福な都内育ちで有名私立大学を卒業後、大手証券会社勤務。俊哉さんはこれまでの人生で女性に困ったことはなく、かなりモテてきたのでしょう。ご本人は「もちろん過去にフラれたりしたことはある」と言いますが、これまでの人生、恋愛市場で勝ち組であったことは容易く想像できます。

過去の経験上、女性に尽くされることが多く、俊哉さんはそれを「当然のこと」として受け入れるのに慣れすぎていたのでしょう。セックスレス、子作りという問題から目を逸らし続けたこと、ご自身の浮気にも特に危機感や罪悪感を持たずにいたのは、周りがそれを許容し続けた結果なのかもしれません。

「呆れられると思いますが、あの時が初めてだったんです。妻に対して本当に申し訳ないことをしていた、僕は彼女をずっと傷つけていたんだと理解したのは。

それに……別居直後はあまり人に会いたくもなく引きこもっていましたが、少しずつ外に出るようになり親しい友人に事情を話すと、みんな慰めてくれるものの、『まあ離婚されても仕方ない』と、ほとんど全員が妻の肩を持ったんです」

もともと友人を通して知り合ったことから、友人を交えて遊ぶことも多かった俊哉さんご夫婦。驚くべきは、彼らの見解でした。

「『お前、モラハラっぽかったもんな』『奥さんいい子だから色々我慢してるんだろうと思ってた』とか、みんな口を揃えて同じようなことを言ったんです。もっと驚いたのは、僕の母親までも『いい子だったのに、彼女に悪いことをした』と目を潤ませていて。彼女が苦労してるだろうことを、僕以外はみんな察していたんです……」

ちなみに何が「モラハラ」だったのか明確ではないようですが、さほど深刻でなくとも、俊哉さんが基本的に自己中心的な言動や行動をしていたこと、妻がそれに振り回されていた印象を周囲は持っていたよう。

 

俊哉さんは再び深く落ち込みました。夜はうまく眠れず、食欲もなかなか回復しないまま体重が10キロ近くも落ちてしまいました。

「どうして何も気づかなかったのか。今までどれだけ鈍感に生きてたか。心底自分が嫌になりました。自分ではそれなりに良い夫だと思っていたのに、圧倒的に想像力がなくて、結婚生活は崩壊してた。

 

ただ……思うのは、妻がもっと激しく怒ったり泣いたり、僕を責めたり、わかりやすく感情を表に出してくれたら、その場は喧嘩になったとしても、僕だって何か気づくことがあったんじゃないかと。セックスレスについても、まさか離婚するほど深刻な問題だなんて本当に知らなかったんです。ちゃんと分かっていれば、もっと努力したはずです……。実際今なら、全然できる。むしろしたいって思うんですよ……」

全体を通して、男女の思考のすれ違いはつくづく実感しますが、ごく身近な恋人や妻に対して『察する』のが苦手な男性は多いようです。

最近は女性の性欲が肯定されることも多くなったとはいえ、やはり女性から主張を繰り返すのはそう簡単ではない気もしますが、夫婦がお互いに問題意識や危機感を持つのは重要で、はっきりと伝えることで改善されることもあるかもしれません。

そして、なかなか立ち直るのが難しいという俊哉さんですが、目下拠り所となっているのは読書だそうです。

「相談に乗ってくれた友人の勧めで、今さらですが実は本を読んで色々と勉強してます。心理学や哲学書など色々読んでいて。以前は興味もなかったけど、今となっては刺さる言葉や気づきが多くて驚きますね。特に有名な『愛するということ』を読んだときは、自分の未熟さを痛感しました。これを実践するにはまだ修行が足りないと思いますが、気持ちに整理がついて少しは精進できたら……。

最後にもう一度だけ、妻を愛してること、ちゃんと向き合ってやり直したいこと、別れるとしても幸せを願っていることを伝えようと思っています」

愛するということは、なんの保証もないのに行動を起こすことであり、こちらが愛せばきっと相手の心にも愛が生まれるだろうという希望に、全面的に自分をゆだねることである。

『愛するということ』より引用

これは俊哉さんが印象に残っている一文だそうで、本の中では愛は技術であり、知識と努力が必要だとも言われています。

この名著の教えを実践するのは誰しも簡単ではないと思いますが、たとえ結婚生活で多くの間違いを起こしたとしても、こうして真正面から落ち込み、反省し、パートナーシップについて学び前に進もうとする経験は決して無駄ではないと感じました。

俊哉さんがこれ以上後悔なく奥様と話し合い、できれば夫婦関係が回復するよう、心から応援しています。

写真/Shutterstock
取材・構成・文/山本理沙

 

 

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