2023年10月から導入されるインボイス制度。「自分には関係ない話」と思っていませんか? 実は、企業だけの話ではなく、私たちの生活の様々なところに影響を及ぼす可能性があるのです。今注目を集めるキーワードを深堀りする連載「ニュースなことば」、社会派ライターの渥美志保とミモレ編集部の常松がお届けするテーマは「インボイス制度」です。第3回は、インボイス制度で浮き彫りになる消費税の問題についてです。

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インボイス制度を理解するためには、「消費税」の仕組み上の問題点を知る必要がある


アツミ:前回は「消費税金は滞納者が最も多い税金」という佐々木税理士の言葉に、ちょっとびっくりしちゃったんですが。

常松:びっくりしましたよね。税金のシステムとして破綻していると。

アツミ:今回はそのあたりから、「STOP!インボイス」小泉さんと税理士の佐々木さんにお話を伺いたいと思います。

佐々木淳一さん1984年生まれ、青森県出身。税理士法人東京南部会計 社員税理士。資格の大原 税理士講座 消費税法 担当講師歴あり

小泉 なつみさん1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。

アツミ:最初にひとつお聞きしてもいいでしょうか。

小泉:はい、どうぞ。

アツミ:消費税ってこれまで、売り上げ1千万以下の小規模事業者は免除されてきましたよね。それがここにきてインボイス導入の正当な理由みたいに言われていますよね。「これまでチョロまかしてきた税金をきちんと納めろ」みたいに。でも会社に勤めている人は、仕事に必要なものは全部会社が用意してくれるけど、私たちみたいなフリーランスって、全てを自分で買って、そのたびに消費税払ってるわけですよね。それなのにそんな風に脚ざまに言われるのって、なんだか理不尽だなと。

小泉:あー、それはちょっと違うんですよ。渥美さんは、ボールペンとかノートとか買う時に「消費税を払ってる」と思っているかもしれませんが、その認識自体がちょっと違うんです。消費税の実態って、消費者が払っているようで払っていないかもしれない、「スーパーあやふやな税金」なんですよ。

常松:ちょっとお話が見えづらいんですが……

小泉:これ、消費税の根本のところから始めないといけないんです。

アツミ:お聞きしたいです。

小泉:消費税って名前だし、レシートなどを見ると、「100円の本体価格に対して10円の消費税」といったように、「モノの値段」にキレイにプラスオンされているから、「消費者が払っている税金」のような気がしますよね。でも、消費税法にも明記されていますが、納税義務があるのは「事業者」なんですよ。

常松:でもモノを買うと、消費者はきちんと10%とられていますよね。レシートにも明記されてるし。

佐々木:それがすごいミスリードになって、めちゃくちゃわかりづらくなっているんです。まずは前提として、消費者が支払っている金額は、あくまで「モノそれ自体の値段」なんですね。「モノの値段」ってどうやって決めると思いますか?

アツミ:原価に、いろんな経費とか利益とかをつけたして決めますよね。

佐々木:その原価以外の部分を「付加価値(粗利)」といいます。インボイスの導入でよく引き合いに出されるフランスの税金は「付加価値税」と呼ばれていますが、日本の消費税はこれとほぼ同じで、この「付加価値(粗利)」の8%なり10%なりを納める義務を、事業者に課したものです。

アツミ:整理させてください。例えば「原価 60円」の商品が「税込み価格 110円」で売られていたら、付加価値は50円ですよね。そうなると事業者が支払う税額は……

佐々木:4.5円(50円×10/110)です。でも消費者は自分が消費税を10円を払い、それがそのまま納税されるーーつまり消費者からの「預り金」だと思いこんでいるから、消費税の免税事業者が「チョロまかしている」「免税を口実に利益を得ている(益税)」というような話が出てくるわけです。(実際には、残りの5.5円は60円の原価を自らの売上とする事業者から納税されます。)

小泉:例えばラーメン屋さんがラーメン1杯の値段を決めるとき、原価とか人件費とか光熱費とか店舗の家賃とか利益とか、いろんなものを勘案して提供価格を決めますよね。消費税も、数多ある価格を構成する一要素でしかないわけですが、なぜか消費税だけを抜き出してレシートに明記することが義務化されているんです。

常松:レシートに明記されてるから、勘違いしちゃいますね。なんでわざわざ誤解を招くようなことを……。