グルメと人情は相性が良い。例えば、『きのう何食べた?』や『作りたい女と食べたい女』などのヒット作でもお馴染みの“美味しい料理を通して描かれる人との交流”という展開。グルメ人情系漫画とでも言うべきか、この類の作品が大好きだという方も多いことでしょう。

今回ご紹介する『飯を喰らひて華と告ぐ』もまさに同じジャンルの作品。けれど、この腕を組んで仁王立ちする店主……今までの“グルメ人情系漫画”とは一味違うスパイスで私たちの舌、いや心を魅了します。

『飯を喰らひて華と告ぐ』1 (ヤングアニマルコミックス)


その料理屋、廃れた店か知る人ぞ知る名店か


激務に追われるひとりの会社員。そんな彼が今日のランチに選んだのは、何気なく通りがかった料理屋「一香軒」でした。

 

東京のど真ん中から、少し裏路地に入ったところにある「一香軒」は、廃れたお店のような雰囲気がありますが、一方で知る人ぞ知る隠れた名店のような匂いも……。なぜなら、入店してすぐ彼を出迎えたこの店主の笑み。

 

全てを見透かしたかのような口ぶり、そしてどんと構えたような包容力。さらに店主の実力を裏付けるかのような華麗な調理テク……これは当たりだ! と読者も彼と一緒に胸が高鳴ります。

 


店主は人情に厚く味もピカイチ……だけど?


こうして完成したチャーハンは、素朴だけれどじんわりと沁みる美味しさ。たかがチャーハンと侮っていた料理に心を動かされ、思わず午前中に抱えていた仕事のモヤモヤについて想いを馳せる会社員の彼。

 

料理を通して店主のメッセージ、いや人情を感じる……これぞグルメ人情系漫画の真骨頂! と思いきやこの店主、最後にとでもないスパイスをお見舞いしてくるのです。

 

――え? なんて? と、肩透かしを食らったかのような店主独自の“的外れな説法”。何を言っているんだという戸惑い、そしてここは絶対に外したらダメだろ! というツッコミの往復を繰り返していくうちに、もはや悩んでいる自分がアホらしくなってしまう……これこそが料理屋「一香軒」だけがなせる、自慢のスパイスの効能なのです。

 

きっとあなたも「一香軒」の常連になる


超絶画力で描かれる調理シーン、そしてチャーハンに続き、白湯ラーメンや豚キムチ、アジのお造りといった美味しそうな料理の数々は涎垂もの。「一香軒」の店主は、お客はもちろん私たちの胃袋はがっちり掴んでいるのに、なのに、なのに……心だけは掴めない!

そんな残念な店主だけど、やっぱり憎めないし、読み進めていくうちにこれは “完璧なメニュー”だとさえ思えてくるのです。例えば、この美味しい料理に加えて、店主からの完璧な助言があったら……ハイカロリーなものをWで喰らって、もしかしたら少し胃もたれしてしまうかもしれません。

――料理の腕は完璧なのに客への助言がイマイチ決まらない。この絶妙なバランスの良さはもちろん、そんな不完全さに思わずクスリとしてしまうし、次はどんなスパイスをお見舞いされるのだろうかと。「一香軒」は、毎日通いたくなるような不思議な魅力に溢れているのです。

今年は『飯を喰らひて華と告ぐ』を読んで胃も心も、程よく満たされてみませんか? 料理屋「一香軒」をぜひご贔屓に。

 

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<作品紹介>
『飯を喰らひて華と告ぐ』
足立和平 (著)

東京のど真ん中……から、少し裏路地に入ったところにある、中華屋のような店構えの料理屋「一香軒」。その店主、料理の腕は超一流。そしてお客さんの悩みに優しく寄り添う人情家、だが――悩みを勝手に勘違いし、いつも見当違いなアドバイスを繰り広げお客さんを困惑させてしまう、ズレたオヤジ……。「チャーハン」「白湯ラーメン」「豚キムチ」「アジのお造り」ほか全7品……超画力の作者が魅せる垂涎の調理シーンは必見!!凄く親身なのに凄く的外れな人情シーンは賛否両論!!味はピカイチ、心イマイチ――胃袋掴んで心を離す“異色"なグルメ人情ドラマ。


<作者プロフィール>
足立和平

兵庫県出身。2016年、『戦場のスラッガー』で「週刊少年マガジン」(講談社)の6月期MGP奨励賞を受賞。その後、2017年に『蝶々のように羽ばたいて』、2019年に『ラスト・スイング』が「週刊ヤングジャンプ」(集英社)の新人漫画賞に輝く。2020年には『処暑』で「モーニング」(講談社)のちばてつや賞を受賞。2021年より「ヤングアニマル」(白泉社)にて『飯を喰らひて華と告ぐ』を連載中。
Twitter:@wahei_fee