猫は飼い主や同居している猫の名前を覚えているという研究結果が2022年に発表されました。きっと人間の会話を聞いているのでしょう。人間に優しくされたこともちゃんと覚えていて、もし機会があれば人間に恩返ししたいな、と思っているかもしれませんよ。1巻が3月6日に発売された『くさっても猫なので』は、命を救われた野良猫が美形の青年に変身し、恩返しをしようとするけれど「猫なので」うまくいかないというギャグストーリーです。

一人暮らしの中年小説家・郷原陸郎(ごうはら・りくろう)の元にある日、奇妙な来客が訪ねてきました。

 

この美しい青年(でも全裸)は、満月の夜、陸郎がくれた丸い肉で命を救われたのだと言います。確かにその日、飲んだ後に公園を歩いていたらお土産のつくねを落っことし、そこにたまたまいた野良猫にあげていたのでした。怪しすぎる来客につかみかかると、彼は一瞬ネコに変わり、またイケメンの姿に戻りました。彼は、空腹だった自分に肉をくれた陸郎に恩返しをしたいと言います。

全裸、もしくは半裸のフジマル。猫なので寒くない、というか全裸が当たり前。

野良だから帰る家がない、と言うイケメンをしかたなく住まわせることにした陸郎は、彼を「フジマル」とテキトーに名付けられます。陸郎はずっと独り身ですが、最近いい感じになっている女性がいました。そこで、フジマルは言います。

フジマルは基本的にいつでもどこでもタメ語で難しい言葉や表現はわかりません。野良猫だから。

こうして、人間の恋を「交尾」と身もフタも無い表現をするフジマルの恩返しのはじまりはじまり。でも、うまくいくわけありません。だって猫なので。

 

陸郎はダンディな見た目と優しい性格から、女性たちに密かに惚れられているのですが、基本的に全裸か半裸になりたがる(猫なので)フジマルがいつもそばにいるので二人の関係を怪しまれ、恋愛フラグが毎回バッキバキに折られます。

いかつい顔と、どんな女性にも優しい性格のギャップ萌えなのか女性陣に密かに人気の陸郎。だが、本人はそれを全く知らない⋯⋯。

フジマルは人間化して、人の言葉は少し理解できるようだけども猫の本能や習性は変わらないまま。「最近いい感じの人」という抽象的な表現や、ややこしい説明だと理解できず、「猫にもわかるように言って」と言うのが口癖。これは猫から見た人間世界の複雑さを感じさせますね。

モンブランを食べてはゲロったり、鶏肉の骨を集めたり、人間の姿のまま実に猫らしい行動をするフジマル。

街中に出ると、そのピュアな汚れなき顔から騙しやすそうだとねずみ講の男たちに引っかかりますが、「ねずみ」と聞いて目の色が変わります。

ねずみネタは他にも登場。だって猫なので大好物!

他の猫が家に入ってくるとエジプト座りで全身の毛を逆立てて怒り狂います。

 

フジマル人間ver.の美しい見た目に最初はキュンときたり、陸郎との関係を妄想する女性たちも、猫丸出しな言動が意味不明すぎて引いていきます。

また、猫世界の常識は、人間世界では通用しない。ゆえに人間世界でぶっ飛んだことをするフジマルが笑えるのですが、逆もまた然り。パッチリとした大きな目に細いアゴで、すらっとしたスタイルのフジマルは人間世界ではイケメン認定なのですが、猫世界でもイケメンなのかというと、それは違うのでした。

「猫の恩返し」というほっこりハートウォーミングになりそうなテーマを、「うまくいかない」男二人のスピード感あふれる爆笑ギャグに仕上げた本作。これはドラマ化したら面白そうだな〜と思ったのですが、全裸があるので無理かも! でも、実写化するならフジマルはあの俳優で見てみたい⋯⋯なんて期待してしまいます。

 

『くさっても猫なので』第1〜2話を試し読み!
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<作品紹介>
『くさっても猫なので』
関口 かんこ (著)

小説家・郷原陸郎の家に、超絶不審者が現れた。美青年で、全裸で、自称ねこ⋯⋯!!!?? 餌を恵んでくれた陸郎にお礼がしたいらしいけど、うまくいくはずがありません。だって彼は、生まれつき猫なので。
 


作者プロフィール: 

関口 かんこ
よしふみとからあげ』『飼ってない猫』などが代表作。現在、『くさっても猫なので』を「ヤングマガジン」(講談社)にて連載中。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩