「承認欲求」という言葉を聞くと、どこか悪いイメージを感じませんか? SNSで過度に「いいね!」を欲しがったり、「自分はすごいのだから褒めてもらって当然」と半ば強要されたりすると、周囲の人は辟易してしまいます。ただ、「承認欲求」自体は、誰もが持っている自然な欲求で、人から褒められることで自己肯定感があがったり、モチベーションが高まったりと、いいこともたくさんあります。女性向けマンガアプリPalcyで連載され、このほど完結した『褒めるひと 褒められるひと』は、おもちゃ会社の総務部を舞台に、“褒めるひと”と“褒められるひと”を中心とした、癒し系お仕事マンガ。できて当たり前、ミスをした時はこっぴどく怒られて不条理さを感じているのなら、刺さるものがあるかもしれません。


嫌味な部長にミスをチクチクと指摘され、凹む……。


おもちゃ会社の総務部で働く市川詠子(25)の業務は、書類作成やファイリング、備品管理、電話の取次ぎやお茶出しなどの来客対応と多岐にわたります。給湯室で、客に出したいお茶の2煎目を飲むのがささやかな楽しみです。毎日、仕事でそれなりに忙しいのですが、縁の下の力持ち的な仕事で、達成感や充足感はいささか物足りないといった感じのようです。

 

そこに、市川さんを呼びに来たのが、上司の坂東さん。坂東さんに連れられて部長のもとに行ったところ、市川さんが作った書類にあった、取引先の名字を間違えていたことを指摘されてしまいます。「一番やっちゃいけないミスだよね? 凡ミス」とコテンパンに怒られます。

 

市川さんは日々きっちりと仕事をこなしているのですが、会社にとっては、できていて当たり前のようで、それが評価されることはありません。でも、たった1回の失敗では散々怒られ、市川さんのモチベーションはダダ下がりに。

誰も自分の仕事ぶりを見ておらず、褒められることもない状況に凹み、給湯室で、「褒められたい」「あと部長の鼻毛抜きたい ピンセットで一本一本…」と愚痴をこぼしていました。誰も聞いていないと思いきや、拾は背後には上司の坂東さんが立っていて、市川さんの発言をまるっと聞かれてしまったのです。坂東さんは、動揺する市川さんに「食事に行かない?」と誘います。

 


怖い印象の上司に、部長の悪口を聞かれてしまった!!


市川さんにとって坂東さんは、ちょっと怖い印象の上司で、ろくに喋ったこともありません。しかも、部長の悪口を聞かれてしまったのですから、「好きなもの頼んでね」と言われても、心穏やかではありません。ビクビクする市川さんでしたが、坂東さんは、「部長には絶対言わないから」と一言。そして、今日のミスは部長も大きなミスをしていて虫の居所が悪かっただけ、と優しくフォローしてくれました。笑顔を浮かべる坂東さんにつられて、自然と笑みがこぼれる市川さん。そして、坂東さんは、「やっぱり君は笑ってるほうがいい 目がゾウみたいですごくいいよ」と満面の笑顔を見せるのでした。「目がゾウみたい」ってどういうこと!?

 

坂東さんは、普段の市川さんの仕事ぶりも「忍者的でいい」とか、独特の表現を連発します。どうも坂東さん的には、市川さんを褒めてくれているようなのですが、その褒め方が独特すぎるというか……。でも、そのあと坂東さんは、「市川さんはどんな仕事でもきちんとやってくれるから 君が居てくれてすごく助かってるんだ」と直球で言葉にしてくれたのでした。

坂東さんは、給湯室で、市川さんが部長の悪口だけでなく、「褒められたい」とこぼしていたこともしっかり聞いていて、あえて食事の時間を作って、そのことを伝えてくれたというのです。上司にこんなことを言われたら、グッとくる!

 

それが、今までちょっと苦手だったと思っていた上司からの言葉で、これでもかというくらい市川さんのいいところを挙げて褒めてくれるので、驚きと喜びもひとしおなのですが、その褒め方の角度が独特すぎてなんか違う?

 

褒め方は珍妙でも、自分のことをちゃんと見てくれていて、評価してくれていることがわかっただけでも、市川さんの心は救われ、晴れやかな気持ちになることができました。坂東さんは、今回の書類の名前ミスは、坂東さん自身の確認ミスでもあり、普段のコミュニケーション不足が招いたものと反省していました。もっと会話ができれば、スムーズな仕事ができるようになると気付いた坂東さんは、「その一環として僕はこれからも 君を褒める…!」と宣言。今まで、仕事ができて当たり前だった市川さんですが、今後は坂東さんの珍妙な褒め言葉を浴びまくることになるようです。

物語は市川さんと坂東さんを中心に、仕事ができて辛辣な物言いのクールビューティーだけど、自社製品の女児向け人形が大好きな小佐川さんや、社長の孫でバリバリのコネ入社で総務部に配属された新人・中村くんなど、ユニークなキャラクターが登場し、さらににぎやかになっていきます。

 

褒められたいと思っているけど、誰かのことを褒めたことはある?


本作を読んでいると、自分が評価されたい、認められたいと思うことはあっても、自分は誰かのことを褒めることってあったっけ? ということに気付かされます。坂東さんはその褒め方の表現こそ独特ですが、市川さんのいいところをキャッチして、本人にフィードバックしてくれるなんて、実はすごい人では? と思わせてくれます。あのオリジナル色満載の褒め言葉でも、なかなか思いつかないものも多く、もし自分が言われたら爆笑してしまいそうです。それに、変わった表現だからこそ、そこで笑ってしまって、肩の力が抜け、素直にその褒め言葉を受け止められるのかな、と思います(坂東さんがそこまで計算しているとは思えないけど)。

過度の「承認欲求」はいただけないけど、いいなと思ったことは素直に褒め、褒められた方も感謝の気持ちを表現すれば、人間関係はより円滑になるのかもしれません。

本作は、4/13に最終巻の3巻が発売されたばかり。初夏には森川葵さんと川崎鷹也さん主演で、NHK夜ドラでのドラマがスタートするので、こちらも期待大。仕事に疲れたり、報われなくて疲れてしまったりした時に読みたくなるマンガです。

 

【漫画】『褒めるひと 褒められるひと』第1〜2話を試し読み!
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『褒めるひと 褒められるひと』
たけだのぞむ 講談社

おもちゃ会社で事務員をする市川詠子は、目立たないながらも会社に必要な仕事を日々こなしていた。ある日、部長からミスを指摘され説教される。普段の仕事をしっかりこなしても評価されず、一度の失敗で怒られる不条理さ…。打ちひしがれる詠子だったが、その様子を見ていた部長の右腕・坂東に食事に誘われる。何を言われるのかビビる詠子だったが、不安とは裏腹に坂東はなんと詠子を褒めまくってくれたのだった!ただその「褒め」はちょっと変わっていて――?上司の褒め方のクセがすごいぃ!! 奇天烈だけど癒される。ほっこり職場コメディ!