5月10日からmi-molletSTOREにて予約販売がスタートしたミモレ別注「サキ(saqui)」のブラックフォーマルのワンピースとジャケット。ミモレ世代から寄せられた「急な不幸があって咄嗟に喪服を買ったけれど、あんまり気に入っていない……」「ちゃんとしたものを揃えなくちゃと思いながらも後回しにしていた」という声を受け、大人世代が満足できるブラックフォーマルを作ることとなりました。
今回ブラックフォーマルの別注をお願いしたのは、パリのメゾンでも経験を積んだデザイナー岸山沙代子さんが手掛ける「サキ(saqui)」。シンプルなデザインでありながら、上質な素材の質感、身体をきれいに見せるパターン、さり気なく施されたディテールなどで生まれるアイテムが大人世代の人気を集めているブランドです。
サキのファーストコレクションで作ったワンピースがブラックフォーマルの生地にも適していたことから、やがて喪服を作り始めた……という誕生秘話から、今回のミモレストア別注のこだわりまで、デザイナー岸山沙代子さんにお話をお伺いしました。
「サキでブラックフォーマルを作り始めたのは、お客様からの何気ない一言がきっかけでした。黒のコクーンシルエットのワンピースを愛用してくださっていた方が『しっかりと黒くて品があるから、喪服としても着ています』と仰ってくださったんです。私自身は黒が美しいワンピースとして提案していたのですが、まさかブラックフォーマルにも使用されているなんて、と驚きでした」
岸山さんが黒の美しさに惹かれた、というワンピースの生地は、今回のミモレ別注でも使われているファリエロサルティのバックサテンジョーゼット。ファリエロサルティ社といえば、ストールでもその名を知られる、イタリアの老舗ファブリックメーカーです。よくよくメーカーに聞いてみたところ、実はこのバックサテンジョーゼットの生地は、某高級ブランドでもブラックフォーマル用に使われているものだったそう。
「黒がしっかりと黒くて、柔らかくてしなやか。しかもシワになりにくく、黒が褪せない、という本当に魅力的な生地。しっとりとして落ち感が美しく、きれいなフォルムを作ってくれるんです。デザイン面はもちろんですが、さらに実用面でも素晴らしくて。ブラックフォーマルを着るときって、遠方に行く場合も少なくないですよね。畳んで持ち運んでもシワになりにくいというのは、とても重要ですし、また黒が褪せないという点も、デイリーに着るものではないフォーマルウエアには大切な要素。久しぶりに出してみたら……なんて心配もいらないんです」
岸山さんがサキで初めてのブラックフォーマルを作ったのは、“ほぼ日”で伊藤まさこさんから声をかけていただいたとき。そのときに作ったのは、膝下丈のIラインのワンピースに、着丈長め、袖に深くスリットの入ったジャケットで、デザインがほどよく効いたブラックフォーマルです。その後も別のコラボレーションなどでブラックフォーマルを作ってきた岸山さん。今回のmi-molletSTOREの別注では、よりミモレ読者の気持ちに寄り添って作り上げてくださいました。
「バイイングディレクターのスタイリスト福田麻琴さんとも相談して、ワンピースの丈をかなり長め、ミモレ丈に設定しました。ブラックフォーマルでいえば、しっかりと丈があるほうがよりきちんと感がありますし、年齢を重ねると、スカート丈は長いほうが安心感がありますよね。それは福田さんも私も同じ考え。また40代、50代と年齢を重ねるごとにどうしても体のラインが甘くなってきます。すっきり見せるために、体をきれいに包み込んでくれるワンピースにしたくて、両サイドに一枚ずつ生地を足して、自然に立体感の出るパターンにしました。そして多くの方に、長く愛用していただけたらいいなという思いもあり、着た人を美しく見せることに注力して、ごくごくシンプルに仕上げています」
足捌きを考えて入れてあるワンピースのバックスリットは、膝裏や内ももが見えない長さにこだわっています。また喪服としてではなく、普段使いするときにも着やすいようにと、ワンピースはポケットつき。ミモレ読者と同世代の岸山さん、福田さんだからこその行き届いたブラックフォーマルが完成しました。
実はもうひとつ嬉しい偶然があったと岸山さんが最後に教えてくれました。
「ファリエロサルティ社はイタリアのファブリックメーカーなのですが、ブラックフォーマルに使っているバックサテンジョーゼットは日本国内で生産しているんです。ジョーゼットの繊維の中までしっかり黒く染め上げる技術は、日本の工場が素晴らしいそう。でも、そのおかげで、日本のブランドであるサキは、直接日本の工場からアトリエに届けてもらうことができるので、輸送コストがかなり抑えられ、生地の質からすると、手に取っていただきやすい価格に設定することができました」
撮影/大石葉子(TENT)
構成・文/幸山梨奈