「視える」能力、いわゆる霊感というものを信じますか? 「なんとなく気になる」といった直感も霊感の一部なのだそうですが、今回の『うしろに何かみえてますが』の主人公は、完全に霊が目で見えるタイプの霊感が開花してしまいました。本作は、過去にドラマ化した『P.A. プライベートアクトレス』など、ドラマティックな人間ドラマを描く赤石路代さんの最新作で、4巻が4月10日に発売されました。
両親を早くに亡くし、天涯孤独の一花(いちか)は両親たちが作ったかたづけ屋で働いています。かたづけ屋とは、人の家の掃除や片付けを請け負う仕事です。一花は、掃除も、綺麗になった部屋を見て喜んでくれるお客様を見るのも好きでした。
ある日、彼女が住むアパートの下の階に、謎の眼鏡男子・斑鳩理生(いかるが・りお)が引っ越してきました。場の空気を和ませる雰囲気を持つ彼でしたが、ちょっと謎。
その後、一花は仕事の現場に向かう途中、通り魔から女の子を守ろうとして怪我をしました。病院に運ばれ、命には別条がなかったのですが、その夜から彼女に変化が。
夕方になると、人の後ろに誰かが見えるのです。
この女性看護士さんの後ろにはおばあさんがいて、必死に「別れな」としきりに忠告していますが、一花以外にその姿は見えていません。
病院内で会う人すべての後ろに誰かが立っている。怖くなってきた一花ですが、お見舞いに来た理生を見てびっくり。
彼だけは「後ろに人」ではなく、天使のような羽根が見える⋯⋯。
あまりの神々しさに思わず、今自分の身に起きていることを話してしまう一花。これをきっかけに、彼女は、仕事で出会う人の後ろにいる霊が訴えてくる言葉を、本人に伝えるスピリチュアルな役割を担うようになります。
片付けられない往年の女優の後ろに見えたのは、彼女を褒め称える女性。
アパートの隣人が飼いはじめた柴犬の後ろには、元の飼い主さんが、一花にだけ見え、語りかけてくるのです。
人にはたいてい誰かがついていてくれる
「見える」ようになった一花が気付いたのは、人にはたいてい誰かがついていてくれるということ。これって、背後霊というより、その人を見守ってくれる守護霊なんじゃないかな、と。
同僚のブラジル人の女の子・ニコちゃんには故郷の人たちがたくさん。
でも、一花が「自分には誰がついているのだろう」と、鏡で後ろを見た時にはショックな事実が⋯⋯。
それでも、彼女が身を挺して他人を助ける優しい心の持ち主だと認めてくれる理生に、慰められ、心惹かれてゆく一花。彼の正体はよくわからないけれど、二人の仲は接近!
人が普段見せたくない暗部を綺麗にする役割
他人の家を掃除するかたづけ屋の仕事も、人の後ろに霊が見えてしまう霊感も、どちらも人が普段は見せたくない暗部を見て、そこに入り込んで綺麗にするというのが共通しています。
人を助けたいと思う性格じゃないととてもじゃないけれど担えるものではありません。通り魔から女の子を守るため怪我をした一花だからこそ与えられたのかな? なんて思います。
理生が惹かれたのは、一花のそんな心根の部分でした。
ヒロインの友人がブラジル人なのがいい
一花の同僚であり学生時代からの友人・ニコちゃんことニコール=ガルシア。少女漫画の定説でいくとヒロインの友人って別に日本人でもいいのに、あえてブラジル人にしているところに、多様性とリアリティを感じます。
ニコちゃんには故郷ブラジルの守護霊がたくさん後ろにいるということや、ニコちゃんが転校してきた時から仲が良いというエピソードから、一花とニコちゃんの人間味がわかります。
本作の、ミモレ世代なら心落ち着く少女漫画らしい画風で語られる人間ドラマはほっこりとした読後感。一花や理生の両親に関する伏線も張られ、ドキドキしながらも、読み手を傷つけることはしない優しさが根底にあります。
安心して心を委ねて読めるのは、さすが少女漫画の巨匠・赤石路代先生ならではです!
『うしろに何かみえてますが』第1話を試し読み!
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<作品紹介>
『うしろに何かみえてますが』
赤石 路代 (著)
夜になると、人の後ろにいる背後霊が見える――。ある事件がきっかけで、特別な力に目覚めた一花(いちか)。彼女の仕事は、依頼があればどんな家事でも代行する、かたづけ屋「アオヤネ」。一花の住むアパートに越してきた謎の男・理生とともに、今日もまた“うしろの人”の声なき声に耳を傾けて⋯⋯!?
珠玉のヒューマン・ファンタジードラマ、開幕!
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
作者プロフィール
赤石 路代
漫画家、作家。1980年、小学館「別冊少女コミック増刊号」に掲載の『マシュマロティーはひとりで』でデビュー。代表作は『P.A.』『アルペンローゼ』。主に小学館で活動。1993年、『ワン・モア・ジャンプ』で第39回小学館漫画賞受賞。『ないしょのハーフムーン』『P.A.』がドラマ化。『アルペンローゼ』がテレビアニメ化された。