双子の勘
「おー太一、この前はさくらんぼありがとな。諒子も大喜び。隼人にも分けようとしたんだけど、あいつ忙しくてさ、会えなかったんだ」
中学の同級生でもある太一と、新橋の焼き鳥屋で待ちあわせをして、仕事帰りに集合。旧友に会うのは久しぶりだ。
「そりゃよかった。隼人、この前偶然ばったり会ったんだよ、丸の内に仕事で言ったらすれ違って。調子はどうってきいたら、なんかすごい部署に行ったんだって? 珍しく自慢してたぞ。あいつすげえよな~」
「そっか、元気そうだった? 最近会ってなくてさ」
生ビールジョッキで乾杯しながら尋ねると、太一は大きくうなずいた。
「元気元気。あいついつもあんまり自分のことべらべら話さないだろ? でもそんときは仕事の話ばーってしてたから、よっぽど充実してるんだろ。いいなあ、天下の三友商事! 同窓会ではおごれよーっていっといた」
俺は曖昧に笑いながら、この前から感じる違和感の正体について考えを巡らせていた。
偵察の夜
金曜の夜。普段は俺の生活とは無縁のそびえたつビル群の街で、隼人の出待ちをしていた。
最初はビルのエントランスが見える街路樹脇のベンチに座って本を読んでいたが、周囲が暗くなってくると見逃すような気がして結局は隼人の会社のエントランスをくぐった。
受付スタッフが3人官女みたいに並ぶボックスから一番遠くのソファに座る。19時半から待っていたが、隼人が出てきたのは21時。なんというか、偶然通ったなんて言い訳が苦しい時間帯だ。さすがに人通りもまばらになっていた。
「お~い隼人! お疲れ、ちょうど終わる頃かなって思って、通りかかってみた。一杯飲みにいこうぜ~」
俺を見つけた隼人の顔に浮かんだのは、笑顔ではなく動揺の色だった。
夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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