奇妙はおばあちゃん
駅のホームにあるベンチに座りながら、ぼうっと電車を待つ。生徒の家は急行に乗れば1駅。時刻表を見る気力がないから、急行がいつ来るのかもわからずに、ムシムシと暑い街をホームからぼんやりと見ていた。
「今日は暑いねえ」
最初は自分が話しかけられているとは思わなかった。
「ムシムシするねえ」
のんびり、でもはっきりとした声の調子で、私に話しかけているのだとわかった。ベンチの横を見るといつの間にか、小柄なおばあちゃんがちょこんと座っている。淡い水色の涼しそうなコットンのワンピースを着て、手には金魚の刺繍がついた可愛い巾着。
おばあちゃんはにこにこしながら、巾着からガーゼのハンカチを取り出した。
「使うかい?」
「……あ、大丈夫です」
私はまぶたも腫れていて、目も真っ赤。きっと泣いていると思われたのだろう。恥ずかしくてぶっきらぼうに答えてしまう。半日ぶりに発した言葉は、のどにひっかかって小さく咳払いをした。少し声がかすれていた。
「おやおや、調子が悪そうだね。そんなときはうちに帰ってぐっすり眠ったほうがいいよ。どうしても行かなきゃならないのかい?」
不意にそんなことを言われて、自分がなんのためにここにいるのか、一瞬わからなくなった。人生を左右する試験の不合格が分かった日に、アルバイトに行くのは普通なのか、もっと自分を労わるべきなのか、言われてみればよくわからない。
私は曖昧に微笑むと、もう話しかけないでとばかりに前を向いた。ごめんね、おばあちゃん。今日だけは、調子が悪すぎる……元気に振舞う気力が残っていない。
するとおばあちゃんはさらに、妙なことを言いだした。
夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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