ファッションスタイリスト佐藤佳菜子さんが日常に感じる思いを綴る連載です。
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7〜8年前に何気なく行った婦人科で卵巣に腫瘍を見つけた。4センチの球。ほぅ。わたしはこんなところに球を隠し持っていたのか、と思って心の中で「タマ子」という名前をつけた。それと同時に、子宮頚がんの予備軍である、変異した細胞も発見されて、子宮付近がなにかとお騒がせなことを知った。子供を産んでいないせいもあるだろうし、若い頃から、不規則な生活をしつづけてきたのも、関係なくはないだろう。でも、ぜんぶ、わたしの選択であり、わたしが作ってきたものだ。
調べた結果、緊急性はなかったので、年に一度、タマ子たちのご機嫌伺いをしていたのだが、数年前、ロンドンに住んでいたとき、子宮頚がんの予備軍のほうが、どうやらあまりよろしくないということで、変異した細胞の付近を切除する小さな手術をした。ご想像にかたくない、欧米のスパルタ医療システム。麻酔でふらついていようが、血が流れていようが、終わったらすぐに「ハイ、自分で運転してお帰り、今日はビールは飲んじゃダメだけど、おいしいシャンパンが出てきたら、飲んでもいいから笑」とさして面白くもないジョークとともに帰されたのも、いまとなったらいい思い出。
先日、年一回の、定期検診にクリニックへ行ったら、切除したはずの変異細胞がまた爆誕していた。ほぅ、切ったときあんなに血が出たのに。シュワちゃんも驚くほどの早さの「I’ll be back」。ロンドンの妙に明るい医療現場を思い出し、あの人たち、本当にちゃんとやったのかいな、という疑問も浮かんだり、浮かばなかったりしたけれど、今のわたしの体は、すべて今までのわたしの人生のツケ。お騒がせな子宮は、わたしの人生の写し鏡だ。致し方なし。タマ子はわたしが生み出したのだ。
クリニックの先生が、一度、大きな病院で卵巣のほうの球とともに見てきたら? というので、久しぶりに総合病院に行った。タマ子は、8年間で8ミリ成長している程度、つまり1年に1ミリ。非常にのんびり屋だ。この成長のスピードをみると、この子はわたしが高校生とかひょっとすると中学生のころからここにいた可能性もある。
エコーを見ながら、「あぁ、あと1センチくらいの子宮筋腫もありますね、まぁそれは小さいから特に問題はないですけれど」と、さらっと新メンバーも発見する先生。タマ子に仲間ができていた。この勢いでいったら、遅かれ早かれ、下腹部がビリヤード場。そんなこんなで、明日、ひさしぶりにMRIを撮ります。やれやれ中年はめんどうだ。
長生き願望は特にないので、適度なところでとは思うのですが、急に何かが起こるよりは、体の状況を知っておくに越したことはないし、とにかく他人に迷惑をかけず、ぽっくり逝くのが理想。うちの母は、生前同じことを言いつづけていて、本当に誰にも迷惑をかけずにピンピンコロリと逝ったクチなので、わたしもなんだか強く願えばできる気がしている。あとは気合いだ。ハー!!! 最後の最後まで、楽しく働きつづけられるカラダが欲しいというのは、贅沢な願いでしょうか。とかなんとかつべこべ言う前に、とりあえず、明日、MRIのために朝8時から絶食なのを、自分、忘れないでという願いのが切実です。
スタイリスト佐藤佳菜子さんのコーディネート
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バナー画像撮影/川﨑一貴(MOUSTACHE)
文/佐藤佳菜子
構成/高橋香奈子
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