ファッションスタイリスト佐藤佳菜子さんが日常に感じる思いを綴る連載です。
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大人の生活には、『初体験』が少ない。こちらが黙っていたら、ほとんどのことが『今知っていること』と『今あるもの』で済んでしまう。ただ、人生の中で「大人である時間」がいちばん長いのに、そんな消化試合みたいな時間を過ごすのは、あまりに退屈。
って、おおげさになんの話を始めたのだと思うでしょうけれど、ただ、最近、新しいアイテムがクローゼットに加わったということを言うだけです。すみません。たいそうな話で始めたくせに、尻つぼみ。しかし、一本の新入りパンツで、日々のワードローブの鮮度が劇的にあがったのは、けっこう嬉しい発見。そんな起爆剤はなにかというと、「シャカシャカしたゆるパンツ」。
この春夏、雑誌の仕事でよくパラシュートパンツ(とは、空軍のパラシュート部隊が穿いていたパンツのこと。ゆったりとしたシルエットに、裾から風が入り込むのを防ぐ裾絞りのデザインで、シャカシャカとした生地とボリュームのあるフォルムが特徴)の特集をして、かわいいなと思いながらも、現実的には、アーミー風のぶかぶかでしゃかしゃかのパンツは、小柄なわたしにはあまりに大げさすぎて、長すぎて、なかなか自分で着こなせるちょうど良いものを見つけられずにいた。
これは、見送るべきトレンドかと思いかけていたところに、見つけたのは、裾絞りではないけれど、コクーンシルエットのパンツbyシャカシャカ素材。軍隊感はゼロでいたってシンプルなデザインだった。なんだか、わたしでも穿けそうな予感。しかも黒。いつもだったら、黒のデニムを穿いていたところ、それから、ウールやコットンのパンツを穿いていたところを、このシャカシャカコクーンパンツに置き換えると、コーディネートが見違えるように新鮮になった。うぉ。これは、これは。ただほんの少しシルエットや素材が変わっただけなのに、なんだか、ときめきトゥナイト。
連日、このパンツばかり穿きたい気持ちをなんとか抑えながら暮らしていたら、次の出会いが。店頭でウィンドウショッピングをしていたとき、パラシュートパンツがやはり気になって手に取ったものの、やはりサイズ感が大きすぎると諦めた次の瞬間、なんだか目が合った。「ん?君、やけにコンパクトやないか?やけに丈、短くないか?」余計な装飾が一切ない、シャカシャカ素材のすそ絞りパンツがそこにいた。しかもネイビーときていて、はかない理由がない。まぁ、想像通りぴったりだったので、もちろんこの一本も仲間に加わって、わたしのパラシュート欲は落ち着きました。テッテレー。願えば叶うの法則。忍法引き寄せの術!!!!!
ちなみに、このパンツは裾幅がもう少し大きかったのですが、わたしはすこし細くしたかったので、自分で少し縫って調整しました。そんなこんなで、最近はこのパンツたちばっかり穿きたい気分。甘いアイテムとのバランスもとてもいいので、フリルのトップスとか、ポインテッドトゥのパンプスなど、フェミニンなものと合わせて着ていることもあります。
大人になって、いよいよ自分の好みがはっきりしてくると、服選びを迷わなくなることはいいことだけど、代わりに、着こなしの鮮度は薄れる。いつも同じものばかりを集めてしまうから。でも、ときに、たったひとつのアイテムが、見た目にも気分的にも大きな変化を生み出すこともあるのだなと。その変化は、あくまで『当社比』で他人にとっては大したことでなくとも、自分が楽しんでいるならそれでよし。婦人の心を満たすものはなんだって尊い。
ところで、わたしは7月頭にしてもう真っ黒に日焼けしていまして、それは、先日行った京都で、レンタサイクルをして、街中を帽子ナシ、日焼け止めナシで疾走したせいです。どうか怒ってください。先週のシミ取りはなんだったんだと。てへぺろ。
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スタイリスト佐藤佳菜子さんのコーディネート
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バナー画像撮影/川﨑一貴(MOUSTACHE)
文/佐藤佳菜子
構成/高橋香奈子
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