ファッションスタイリスト佐藤佳菜子さんが日常に感じる思いを綴る連載です。

 


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「ファッション関係者は、顔面への投資額が少ない。その高いバッグのひとつ分くらい、顔にかけたらいいのにって思います」

と、とあるエステのエステティシャンに言われて大笑いした。本当にその通り。「かわいい靴」か「ハイフ(たるみ治療)」かと言われたら、つい衝動的に「靴>顔」になってしまうサガ。ダイヤモンドは楽しい気持ちで買えるのに、美容医療の価格を見ると、目玉が飛び出してしまう不思議。顔面が大切なのは、もちろん、わかりきっているのだけど、若いころからファッションに比べあきらかに執着度が低かった。

ただ、40を過ぎたころから、ここからは顔の時代かもしれないと思うようになった。無頓着だったわたしも、容赦ない老化と向き合うときが、ついにきたのだ。くすみのとれない肌、ゆるむフェイスライン、消えないクマ。寝不足なんかじゃない。熟睡した翌朝ですら、そこにいる熊。おい、そこでなにをしておる、森へ帰りたまえ。

ただ、素人にはとって、そこは沼。ぬるぬると異様な光を放ち、動かない眉毛と頬でほほえむ美魔女になりたいわけではない(←失言)。いちばん難しいのは100も承知で言わせてもらうと、『ほんの少し時を巻き戻したい』だけ。切ったり貼ったりする前に、できることをやってみたい。要するに、美容入門編。

美容家さんたちに教えてもらったクリニックの門を叩くも、そこは魔法の国。ヒアルロン酸、ボトックスくらいは、わたしでも知っているが、ポテンツァ、タイタン、ウルトラセルZi、ピコレーザーにダーマペン。ゑ? 脳内に浮かぶのは、ドラクエの世界。わたしの脳みそは、さっそく冒険に出かけてしまった。タタ、タッタタッタ、タッターーー、戦闘能力が高い呪文はいったいどれなのだ。

先生、ひとつずつそれがなんなのか、教えてくれませんか、と小鳩のような顔で尋ねると、驚くほど単純明快な答えが返ってきた。美容医療でできることは、大きく分けて4つしかない。「1、オペ」「2、糸」「3、ヒアルロン酸&ボトックス」「4、レーザー系」。そして、4から1に向かって、ダウンタイムも長くなります、以上。いろんな会社がいろんな商品を作っていて、呪文はそれぞれのアイテムの名前らしいのだが、すべてこの4つのカテゴリーの中に入るのだそう。ほほう、おそろしく勉強になります。

先生はレベル100000000でわたしはレベル1。この事実をイヤというほど感じたのは、この説明を受ける3分前、診察室に入ってすぐのことだった。目の前に座って、まっさきに先生が言った。「目の左右差、気になりませんか?」。最初から、ふわっとライトに美容医療界最難関の「1、オペ」を提案してくるセンセ。きっと彼女にとっては、目の手術くらい、オペの中でも、ミジンコみたいなものなのだ。日課の歯磨きくらい、いやそれ以下かもしれない。先生クラスは、息を吸うように目を手術できる。なんてお強い!!!!!

いやいやいやいやいや、先生、わたし、そんなパーツの大工事をしようとしていません。と伝えると、先生はすこし不思議そうな顔をしたけれど、パッと切り替えて「4、レーザー系」の幼稚園生クラスでできることを教えてくれた。わたしは、顔に脂肪があまりないので、ボリュームは落とさずにたるみだけを引き締めるハイフと、ビタミンCやAのイオン導入、そして、目の周りのシミとり。はい、そういうのです、わたしがやりたかったのは。

クリニックのナースにも、「え? 40歳のいままでまったく美容医療をやったことがないんですか?」と、まるで、わたしが「え? いままで一度もデニムを穿いたことがないんですか?」と聞くような温度感で聞かれたのもなかなか乙でした。すみません。なんか。

この沼は深い。それに、いちばん知りたいことがなかなか明かされていない、秘密めいた世界。だからこそ、レベル1の美容冒険家(40歳)として、はじめて見聞きしたことをシェアしていこうと思ったわけです。ちなみに、シミ取りのレーザーを打った日の「わたしとシミたち」。なんてミクロの世界。シュールだわ、実にシュールな画だわ。みなさんがドン引きしていないか、うっすら気になってきています、当方。

 

ファッションは、なるべく引きの目線で見て、全身のバランス感やその女性像を描くことがコツだと思っている。でも、美容は、顔というひとつのパーツに全神経を集中させる世界。まるで逆。わたしにとっては初体験のことばかりです。ただ、メスなしでどんな変化があるのかも楽しみです。ただ、ある日突然、わたしの目が左右均等になっていたら、あいつ、誘いに乗ったな。と思ってもらって結構です。

 

毛深いひとたちはいいな。シミとかシワとかまったく気にならないもんね。


スタイリスト佐藤佳菜子さんのコーディネート
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バナー画像撮影/川﨑一貴(MOUSTACHE)
文/佐藤佳菜子
構成/高橋香奈子
 


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