「障害者」と聞くとどこか自分とは縁遠いと感じるかもしれませんが、生きていれば誰でも、病気や事故によって障害者になる可能性はあります。脳損傷による高次脳機能障害を専門にリハビリを行う作業療法士の田中由紀さんは、病気や障害を持った人が生きたい人生を生きられるように、リハビリだけでなく就労支援、障害者雇用もおこなっています。近年、「合理的配慮」という言葉がよく聞かれるようになりました。障害者への配慮と、職場や他の社員の負担のバランスは常に大きな課題です。今回は田中さんに障害を持った人と働く上で必要なことについてお話を伺いました。

 

田中由紀
作業療法士としてリハビリを行う一方、障害者雇用担当も行う。専門は脳損傷による高次脳機能障害。北里大学 医療衛生学部 作業療法専攻卒業。2005年より牧田総合病院リハビリテーション部(人事部障害者雇用推進課)所属。高次脳機能障害外来担当。公認心理師・キャリアコンサルタント・企業内職場適応援助者・両立支援コーディネーターの資格を取得し、支援業務に活用している。

第1回「脳出血・脳梗塞・くも膜下出血...生命の危険や障害が残る危険性も。「脳ドック」で予防のすすめ」」>>

第2回「「変わった自分を受け入れる」障害を持った後の復職、非正規でも復職しづらいわけではない」>>

 


職場に配慮を求める権利がある


ーーなかなか経験してみないと障害を持った後のイメージは持ちにくいと思います。働くことにおいてどういった壁にぶつかるんでしょうか。

田中由紀さん(以下:田中):加齢や働き方、生活習慣などによってよく起こる病気、がん、脳卒中、糖尿病、代表的な精神疾患については、もし治療が必要なった時に、治療と就労を両立するために、本人、家族、上司、人事担当者、医療機関それぞれがどのように対処すればよいか、ガイドラインが出ています。治療就労両立支援マニュアルは無料でダウンロードできます。疾患別に整理されていて、わかりやすいと思います。

例えば癌にかかって、ストーマという人工肛門になった人のことを「オストメイト」と言います。お手洗いに洗浄する設備がないとトイレが厳しくなります。会社がオストメイトに対応していなくて、出勤した時にトイレに困るということで、もう辞めなきゃいけないのかって思ってしまうかもしれないですよね。でも今の時代はそうじゃなくて「こういう障害になっているので配慮してください」というふうに会社に求めると、会社側は一旦対応を考える必要があるんです。

写真:Shutterstock

ーー病気や障害を持った従業員が働けるように環境を整備する義務が発生するということですね。

田中:はい、ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなる時は、この限りではない、というのが基本的な考え方です。例えば、ものすごく小さな店舗のお店で、オストメイト用のトイレを作るスペースがないのであれば「合理的」とは言えない“過重な負担”となります。どちらかが一方的に判断して要求するのではなく、本人と職場の双方が納得できる現実的な方法をよく相談することが大切だと思います。例えば近くの公共施設のオストメイト用トイレを利用しに行くための休憩時間を認めるのはいかがでしょうか、という提案もできます。いろんな疾患に関して同じことが言えます。例えばうつ病になったとして、電話に出たり、接客が心理的にストレスになったりしてしまって、主治医にそういう仕事をやってしまうと病気が再発してしまうと言われたとします。そうしたら接客できないならもう駄目だと諦めるのではなく、シフト管理やバックヤード業務への配置転換が可能か、相談してみてもいいかもしれません。もちろん、自身の判断ではなく、病状に対する主治医の判断であることを伝えることは必要だと思います。