変わらぬ美しさ、というよりも、月日を積み重ねた分だけその美しさを進化させている、という表現がこの方には合うでしょう。ビューティを中心に、エディター&エッセイストとして幅広く活躍中の松本千登世さんです。

このたび、盟友でもある服飾ジャーナリストの山本晃弘さんと、「変わるもの、変わらないもの」を巡り対談を行いました。新著『顔は言葉でできている!』でも、変わらない“顔立ち”、変わる“顔つき”について問うていますが、松本さん、そして山本さんが長く美容&ファッションに向き合ってきた中で、変わっていく良さ、そして変わらない良さ、について語ってくれました。

服飾ジャーナリストの山本晃弘さんと松本千登世さん。トークイベントは白洲次郎・正子夫妻が暮らした武相荘で行われました。


“人が気持ちいい”から、“自分が気持ちいい”へ


山本 松本さんとは古くからの友人で。今日はいつものように千登世さんと呼ばせていただきますね。

松本 私は大学を卒業して4年ほどキャビンアテンダントとして働き、その後広告代理店を経て婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に転職して、そこで山本さんと出会いました。

 

山本 ちょうど『ラ・ヴィ・ドゥ・トランタン』の創刊のタイミングで来られて。私は『メンズクラブ編集部』でしたから編集部こそ違ったものの、労働組合の執行部を一緒にやったときに仲良くなりましたよね。

松本 はい、今思えば、楽しい時間でした。以来、私はずっと美容を中心にお仕事をしてきて。山本さんとは、美しいってどういうことだろう? 大人ってどういうことだろう? 人はどう生きるべき? と哲学的なテーマについて、会うたび、語り合っています。

山本 それがもっとも現れるのが“顔”だと思いますが、このたび『顔は言葉でできている!』という著書を出版されていますよね。千登世さんの人生に影響を与えた様々な言葉を紹介していますが、僕が一番気になったのは「気づかれるのが目的じゃないでしょ?」というひと言。これはどういう意味なんでしょう?

松本 これは、女優の井川 遥さんの言葉で。私は当時、井川さんの連載を担当させてもらっていて、あるとき井川さんが髪を切って来られたんですね。それがあまりに軽やかで、「髪を切ることってこんなにも軽やかになるということなのか!」と感動して、「私も切っていいですか!?」とバッサリ切ったんです。それで、私としてはものすごく変わったと思っていたのですが、誰にも気づかれなくて、何も言ってもらえなくて。

山本 そういうの、ありますよね。自分の中では大きな変化なのに……っていう。

松本 それで「あれ……」とちょっとがっかりしかけていたら、井川さんに「でも、気づいてもらうのが目的じゃないでしょ?」と言われたんです。そのとき、「そうか、そこに捉われていたな」とハッとして。よくよく考えたら、髪を切ったことで「明日何着よう?」と洋服選びもワクワクするようになったし、何より自分の気持ちが軽やかになって毎日がより楽しくなっていた。それで良かったのに、人に気づいてもらうことばかり気にしていて。自分が恥ずかしくなった、という経験でした。

山本 分かります。私は多くのメンズ雑誌を手がけてきました。他の雑誌ではキャッチコピーとして「モテたい」というのを打ち出していましたが、私の雑誌ではモテるためではなくて仕事のための服を提案してきました。「クールビズ」が話題になったときも、自分が涼しいか? ではなく、人が見て涼しいか? を重視してスタイリングを選んでいました。だけどあるとき女性編集者から、「もう少し“自分が気持ちいい”を大事にしてもいいんじゃないですか?」と言われて。ファッションも美容も、時と場合によって変わっていくんだなあとハッとさせられたんですよね。
 

次ページ▶︎ はみ出すことを面白がる力

【覚えておきたい! “顔つき”を育てる言葉】
▼右にスワイプしてください▼

『顔は言葉でできている!』
松本千登世著¥1540/KODANSHA

顔立ち:顔の形や作り、目鼻立ち/顔つき:気持ちを表す顔の様子、表情。
「時間を重ねるごとに、気持ちが顔の形になり、作りになり、目鼻立ちになり、持って生まれた顔が変化していく…。だから逆に意志の力で顔は作ることができる」という著者。
美容のプロである著者の気持ちを瞬時に変えたひと言を、イマジネーションを刺激する写真を添えて、ストーリーとともに綴っています。何気なく話す言葉、聞く言葉、かけられる言葉、目にする言葉の中に、あなた自身の顔つきを育てる「宝物」を発見できるようになる1冊です。