「泣き止まないから、ちょっとぶった」


この状況で3年近くも家庭内の違和感に気づかなかったというのは驚きますが、20歳という若さで母になった小百合さんはママ友もおらず、また近場にご自身の家族もおらず、頼る先も話し相手もほとんどいなかったことでおそらく感覚が麻痺していたと語ります。

推測ですが、裕福な男性と学生結婚し、周囲に羨まれていたという感覚もそのまま残っていたのかもしれません。小百合さんのような素直な女性ほど、一度好きになった男性を受け入れ続けることが多い印象です。

「友人夫婦の帰宅後、『いい生活をしてるくせにふざけるな』と散々キレられましたが、やっぱりうちは少し変なんだ。私は理不尽に怒られてる? これはモラハラ? など自覚が芽生えてきました。とはいえ、だからといって私もすぐに抵抗はできず、夫婦関係は相変わらず。むしろ2人目が生まれてから、夫の態度はさらに悪化しました」

2歳と0歳の子どもがいれば、家の中が騒がしいのは当たり前です。けれど小百合さんの夫はその状況に我慢ならなかったそうで、妻だけでなく子供にも怒鳴るようになったそうです。

そしてついに、痛ましい出来事が起きてしまうのです……。

 

「2人育児で外出も一苦労な状況だったので、たまに夫が家にいる時は1、2時間のお留守番を頼み買い出しにでかけていたのですが……あるとき帰宅したら、まだ1歳にもならない下の息子の顔が真っ青になっていたんです」

小百合さんが目にしたのは、我が子の顔にできた痛ましい巨大な内出血でした。

「当初、夫は『転んでぶつけた』などと言っていましたが、混乱して彼を問い詰め続けると、『泣き止まないからちょっとぶった』と」

 

取材として伺っているだけでも思わず息を飲むほど胸が痛みますが、もちろん小百合さんご本人にとっては正気を保つのもやっとの状況です。

「さすがにこの時は私も彼に怒りをぶつけ、すぐに義母に電話をしたのですが……」

これまで、夫の補強役のように小百合さんを都度サポートしてくれていた義母。数少ない身近な存在であった彼女に小百合さんは助けを求めるべく連絡をしましたが、その反応は意外なものでした。

「夫が息子に暴力を振るった、家にはいられないと半狂乱の私の話を義母は一通り聞くと、『でも一度だけでしょう? 少し冷静になって。家族は一緒にいたほうがいいわよ』と穏やかに言いました。

さほど驚くわけでも、どちらの味方をするのでもなく、なんというかフワフワした対応で。何を言っても穏やかに流されてしまい、結局丸め込まれるような形になりました。もちろん離婚も頭をよぎりましたけど、当時の私は収入も頼る先もなく、何もできなかったんです……」

小百合さんは思い悩んだものの、この時は1人で抱え込んで耐えるという選択しかできなかったそうです。

どこでもいいから逃げて欲しい、と思わずにはいられませんが、経済力がない、自分の家族も遠方で頼りづらい、悩みを周囲に打ち明けられず小さな子どもが2人いる……となると、致し方なかったのだと感じます。専業主婦を否定したくはありませんが、こうした話を多く聞くと、やはり少なからずリスクのある選択なのかもしれません。

ちなみに夫のDVの予兆は過去にもあり、よくよく聞けば夫は子どもの頃に動物をエアガンで打って遊んでいた、彼自身も父親に叩かれて育ったなどの話が出てきたそうです。また夫は、「男はある程度厳しく育てたほうが強くなる」などと主張していました。

「でも、このまま家に居続ける状況は危険だとわかりました。まずは何とかして私が収入を得なければと思ったんです」