コロナ禍でも目にした「手のひら返し」的な批判

 

新型コロナウイルス蔓延に伴う緊急事態宣言が出た時、様々な人々が窮地に立たされましたが、音楽業界の人もそうでした。ライブが中止になればそこに関わる何百、何千という人が路頭に迷います。しかし、音楽業界の人が声を上げると、インボイスの時と同様に、「そんな仕事に就いているから悪いんだ」「堅実な仕事に就かないから自業自得」みたいな声は結構ありました。

普段、散々音楽にお世話になっておきながら、ひっどい手のひら返しだなーと思いました。これも、エンタメ業界の人=夢を追っている、好きを仕事にしているというイメージが根底にあるように思います。自分たちは真面目に頑張ってるのに、好きなことやってるからそうなってるんだろ、みたいな雰囲気があるんですよね。

この人たちにとっては、フリーランスがなぜか、会社員の仮想敵になっているんです。フリーランスは会社員として働く鬱憤から逃れている人たち、自分が負う責任や拘束を免れている人たちに見える。だからフリーランスを叩くのって気持ちいいんです。だってそうすることで、自分の生き方を肯定できるじゃないですか、自分はこんなに頑張って我慢してるって。いろいろ諦めた過去を慰められるじゃないですか、自分は夢や好きなんて諦めて真面目に働いてきてよかったって。人間って、やっぱり「自分はああならなくてよかった」って思いたい生き物なんです。

 

売れない=すぐに辞めざるを得ない社会だったら…


そして、「才能がないなら、売れないなら辞めちまえ」論にはやっぱり思うところがあります。芸能人の方にインタビューすることが多いのですが、みなさん本当に長い下積み時代を過ごしてきているんです。

今ではテレビで見ない日はないスターでも、10年間日の目を見ないなんてザラ。その間先輩に食べさせてもらっていたとか、アルバイトばっかりしてたとか、そんな時期を経ての今なんです。もちろん、みんながスターになれるわけじゃありません。でも、スターはそういった売れなくても続けられた大勢の中から生まれるんです。成功するには、才能や努力だけじゃなくて運やタイミングが重要です。売れないからとすぐに辞めざるを得ない社会であれば、実家が太い人や経済的に余裕のある人しか夢を追えなくなってしまいます。

文化って一握りの売れっ子だけが作っているものではないんですよね。その他大勢の層の厚さが全体を豊かにするんだと思います。