日本の会社員は「声を上げずに、気がついたら消えていく」

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——古屋さんは以前、対談記事で「日本人は声をあげずに、気がついたら消えていく」という傾向について触れられていました。
 


アメリカの労働市場の議論で「Voice and Exit」という言葉があります。自分の待遇改善を訴えて、それでだめならやめていくという姿勢をとったほうがいいということ。日本はNo Voiceでやめていくじゃないですか。これは両者にとって損だと思うんです。なので、会社を使いこなそうと思ったら、まずは声をあげないといけない。自分が不安に思っているかどうかは、話さないと伝わらないですからね。
——PR TALK by talentbook #18 若者が「幸せに働く」未来をどうつくる?組織と個人のこれからの関係性 ─ ゲスト:リクルートワークス研究所・古屋星斗さん より
 


不満があっても、「交渉するという選択肢」が前提としてないから、何も言わずに静かに転職するしかない、というのが現状ですが、これはすごく日本の課題だなと感じます。

古屋星斗さん(以下、古屋):昔は、声をあげることは損だったんです。不満や不安を言った瞬間、「こいつは脱走兵になるかもしれない」という烙印を押された。会社に対する忠誠心が低いから、出世コースからは外そう、とか。それに日本企業は、異動や転勤を含め、会社方針に社員を「従わせてきた」歴史が長いので、「声をあげた社員と交渉する」ということに慣れてないというのはありますよね。

でも、商品開発だってそうですが、「顧客の厳しい意見」は企業にとって一番の宝物なんです。どうでもいい商品に対して、厳しい意見が来ることはない。そう思うと、社員からの声もとても大切です。社員側も経営者のトップダウンの意思決定だけを唯唯諾諾(いいだくだく)とやっていればいいわけじゃない。これからは「Voice or Exit(辞めるか、声をあげるか)」ではなくて、「Voice and Exit」だと思うんです。

若者からよく転職相談を受けますけど、そのときに申し上げるのは、「上司と会社側に今の不満や不安を伝えたらいいんじゃないの」ということです。意外とこれ、めちゃくちゃ効果があるんですよ。

 


若手社員>会社。力関係が逆転している


——企業側は特に、若者には辞めて欲しくないですもんね。

古屋:力関係が逆転しているんです。会社が若手の言うことを聞くようになっていますね。会社としては、何も言わず突然辞められたら打つ手もないけど、思っていることを言ってくれれば交渉材料が増えますし、「これならどう?」と提案することだってできる。

実例として、ある若手社員が会社に自分の意見を伝えたところ、人事から「今度新しくベンチャー企業に出向する制度を作るから、その一部を担ってみないか」と提案され、二つ返事で承諾。本人のスキルも上がり、人脈が広がった人もいます。出向から戻った後も同企業に留まり、新規事業プログラムに参加して、今ではマネージャーをやっているそうです。

他にも、ある若手は「異動ガチャ」(会社でどこに配属されるかわかないこと)を避けるために「自分の上司になってほしい人」を12~13人リストアップ。その上司たち全員と面談を行い、その内容を元に「私はこういうキャリア成長ができると考えます。だから、この部署に異動したいです」と人事に希望を送ったそうです。みんながここまでできるとは思いませんが、「アクションを起こすことで自分の望むキャリアを作る」若者が出てきているのは間違いないですよね。